近年、温暖化研究者が予測していたとおりの気候システム変化とそれによる気候災害が頻繁に観察されるようになってきました。大気、降水、水文、生態系、土壌、海洋、氷床等の気候要因が、より高温の方向にずれ始め、それに伴い、いままであまりみられなかった事象が、各地で一斉に増え始めたのです。巨大化台風の迷走、気象災害と酷暑の毎夏、山火事の多発、白濁米増加と越冬が可能になったイネカメムシの被害、ふるさと納税の目玉サクランボの不作、冬眠時期を間違えた徘徊クマ、北の港でぶりの豊漁、四季が二季になりアパレル業界の当惑、など温暖化の影響はもうわれわれの生活の足下にまで迫ってきています。2年前のメディアではこれらは地域の面白ネタとしてバラバラに紹介されていましたが、これらのすべてが温暖化研究で予想されていた気候システム変化に伴う一貫した事象です。世界中で起こっている気候災害のどれが自然起源でどれが温暖化の影響なのかの判定研究も進み、それらの多くは温暖化がなければ起こり得ないものであることが検証されています。
Q1: 環境の専門家たちは、「気候変動は重大な危機」と叫んでいますが、本当に「重大な危機」なのですか。本当に重大と言われる根拠を教えてください。
説明: 「気候変動が重大な危機である」という根拠は以下の点にあります。
①排出している限り温暖化は進む:今のまま何もしないでいると、その間にも地球温度は上がりますし、気候災害はどんどん増えます。なぜかというと人間が排出する二酸化炭素の約半分は海や陸地に吸収されますが、残り半分は吸収されずに大気中に放出されそのまま消えることなくどんどん蓄積して、大気中の濃度を上げていき、それに比例して地球大気温が上がるからです。座して暑い世界の到来を待つわけにはゆきません。
②脱炭素社会に変えるしかない:少量でも出している限り温度が上がるのですから、温度上昇を止めるには二酸化炭素などの温室効果ガスを一切排出しないということ以外、手はありません。世界が二酸化炭素を一切出さない「脱炭素(ゼロエミッション、炭素中立などほぼ同義)社会」に変わろうしているのは、そういう理由からです。
③急速に進みつつある温度上昇:地球気温は予想以上に急速に上がっています。2021年グラスゴー会議で参加国は1900年頃からの温度上昇を1.5℃以下にとどめようと約束したのですが、昨2024年にはすでに地球温度の1.6℃上昇がEU コペルニクス気候変動サービスによって観測されています。(なお、パリ協定で決めた2℃とか1.5℃という数字は、この1年の観測値だけで決まるものでなく、さらに何年かの観測の平均値が出ないとそこに到達したかどうかは決められません。)
④足元に迫ってきた気候変動被害:近年、温暖化研究者が予測していたとおりの気候システム変化とそれによる気候災害が頻繁に観察されるようになってきました。大気、降水、水文、生態系、土壌、海洋、氷床等の気候要因が、より高温の方向にずれ始め、それに伴い、いままであまりみられなかった事象が、各地で一斉に増え始めたのです。巨大化台風の迷走、気象災害と酷暑の毎夏、山火事の多発、白濁米増加と越冬が可能になったイネカメムシの被害、ふるさと納税の目玉サクランボの不作、冬眠時期を間違えた徘徊クマ、北の港でぶりの豊漁、四季が二季になりアパレル業界の当惑、など温暖化の影響はもうわれわれの生活の足下にまで迫ってきています。2年前のメディアではこれらは地域の面白ネタとしてバラバラに紹介されていましたが、これらのすべてが温暖化研究で予想されていた気候システム変化に伴う一貫した事象です。世界中で起こっている気候災害のどれが自然起源でどれが温暖化の影響なのかの判定研究も進み、それらの多くは温暖化がなければ起こり得ないものであることが検証されています。
⑤温暖化の不可逆性と切迫度: 一旦上がった地球気温はあとで下げられるかというと、まだそのための技術的メドはついていません。これからの世代はどんどん熱くなっていく一方の気候のもとでそれに適応しつつ過ごす生活が待ってます。あと戻りできない事象には予防原則の観点から、可能な限り早く温度上昇を止めなければなりません。
⑥誰も温暖化の被害から逃げられない:世界中の人々はそれぞれの場所で、わずかな自然の変動はあるもののほぼ安定した気候の下で生活を営んできました。地球気候の急激な変化は、災害の増加や食料不作、健康被害などを通じて、そうしたすべての人の安寧な生活を大きく損なっています。またグローバル化された世界では、こうした気候変動被害から生じる諸国の政治不安、安全保障、経済格差拡大、気候難民の発生が、戦争などの国際紛争を加速させ、気候政策を隅に追いやってしまうといった悪循環も懸念されます。
⑦温暖化は人類の持続可能性の問題:今のままの排出を続けていると、温度上昇を人間では止められなくなるまでに気候システムが大変化する可能性も真剣に検討されています。そうなると「人類」生存の持続性が危うくなってきます。世界中の人々の安寧な日常への脅威であることも含め、温暖化はまさに人類の「持続可能性」が試される脅威なのです。
⑧適応策だけでは逃げ切れない:この数世紀の温度変動幅は概ね1℃以内にとどまっていました。人間・生態系・社会システムはもともと気候がもつ自然変動の幅程度にはうまく適応する力を備えているのですが、現在の温度変化は既にこれまでの自然変動幅を超えています。その影響は顕在化しており、さらに今後ゼロ排出になるまでの間温度は上がり続けますから、これに対応するための適応策の強化は喫緊の仕事です。すでに世界では、猛暑や豪雨、森林火災などにより、温暖化による被害と損失がますます顕在化してきています。これを放置することはできません。適応策を抜本的に強化するとともに、これ以上の深刻化を防ぐため緩和対策の早急な強化が不可欠です。
⑨ゼロエミへの道筋と技術的可能性は明示されている:幸いにしてこの30年の研究から温度上昇を止めるにはゼロ排出しかないことが明確になり、それに向けて世界がどのように排出を減らして行くかの道筋も示されています。残念ながらこれまで排出が増え続けたため、これからは相当急速に減らして行かねばならない厳しい道筋しか残っていません。しかし、そのための省エネ・再エネなどの技術的ポテンシャルは十分にあり、既存技術とその改善があれば後は実行するのみという状況にまでなっています。
⑩責任の押し付け合いで削減ができない:2021年グラスゴー会議ですべての参加国が1.5℃上昇以下に止めようと削減に向け約束したにもかかわらず、パリ協定から10年たった今も排出は削減に向かっていませんし、世界各国の削減計画をいくら積み上げても削減量が足りず、とても1.5℃への道筋に乗らない状況です。世界の国が自分だけは楽をしようと責任を押し付け合っている間にも温暖化は進んでいるのです。
⑪気候の危機の真因:もっと早くから減少に向かっていれば、半世紀かけてじっくりと脱炭素転換ができたはずです。それなのに、被害が起きていても見ないふり、逃れられない危機があと数年先にせまり解決策がわかっているのに、各国の政治はそれを阻んできました。気候が変わってきたことは大変な危機ですが、正しく対応していればその危機はなかった。将来世代への責任を放棄し、人類の生存より目先の利益獲得に走り、気が付いたらもう時間がない。こうした悲しい人類の「さが」が、自ら招いた「気候危機」の真因なのです。
⑫1.5℃以下では止められない?:脱炭素化の動きが遅々として進まない状況にあるため、研究者や専門家の間では、とても1.5℃上昇以下で安定化することはできないのではないかとの懸念が出始めています。もちろん1.5℃になった途端にそれまでと異なる変動パターンに切り替わるというわけでなく、地球温度は粛々と上がり続け、被害はそれとともに拡大し続けます。今のところ、これまでと同じく「可能な限り早く温室効果ガスの排出を減らす」こと以外に、危機を逃れるための特効薬はありません。こんなことを続けていると2℃上昇も通過して対応はますます困難になっていきます。その先に何が待っているかはわかりません。おそらく、気候に関する惑星限界(プラネタリーバウンダリー)を超えてしまい、気候システムが暴走しはじめて人為的には止められなくなっているかもしれません。そうなってからではもう間にあいません。
「気候危機が重大」なのは気候が生態系の唯一無二の生存基盤であることにつきます。 毎日の生活が脅かされるだけでなく、人類の持続可能性にかかることなので、1.5℃を超えたとしても手を緩めるわけにはいきません。あてにしていた国連交渉がまとまらず諸国の施策がいい加減な結果、酷暑や災害にさいなまれるのは我々生活者市民とその子孫です。そして温暖化の元凶二酸化炭素排出の栓を握っているのも我々生活者市民です。ならばまず少々張り込んで断熱リフォームし、再エネ電力に切り替え、EVにのりかえなど手近の対策をやり、有志を糾合して企業や行政や政治に声を上げ、一緒になって脱炭素社会転換を進めないと、この危機は逃れられません。