ホワヒンの非日常

2025年2月6日~11日

 
夕暮れのホテルの前に幸せを
ぬいぐるみとか花飾りとか

ボン・ニュイ・ホテルの前には、毎晩、夕暮れとともに、ぬいぐるみの熊たちが置かれる。テーブルが置かれ座布団が置かれ、その場はまるでぬいぐるみの熊たちのパーティー会場と化す。何のためにこんなことをするのか。何のために花まで飾るのだろうか。

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はじめてのデートがいまも続いてる
君の笑顔はずっとまぶしい

50年前に夕方に会うと、東京をやたらと散歩した。いまホワヒンで、海辺を散歩する。君は変わらずそこにいる。笑顔がまぶしい。

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長い時を経たカップルの信頼は
バカンスだけのカップルにはない

長いあいだ一緒にすごして来たと思わせるカップルが海に続く道を歩いていた。その二人を、明らかにバカンスのあいだだけ一緒にすごしていると思わせるカップルが、手を繋ぎ時折キスをしながら追い抜いていった。追い抜かれたカップルは、しばらく立ち止まってから、あいだを開けて歩き出した。おだやかに、ゆっくりと。

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砂浜に無数に開いた蟹の穴
下にあるのか蟹帝国が

砂浜に無数に開いた蟹の穴の数から、この海岸にいる蟹の数を想像する。何万、いや何十万か。その蟹たちが、南北に伸びる海岸線に沿って、北軍と南軍に分かれて合戦を繰り広げていたとしたら、どうだろう。蟹たちは、私たちと同じ世界にいるようでいて、独自の世界にいる。

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桟橋の古びた店で乾杯を
木の床下で波が砕ける

桟橋を模ったレストランに入り、海に突き出た場所に座る。足下を覗くと、古びた木のあいだから海が見え、波が砕けている。空が青い。海も青い。テーブルの白か、目にまぶしい。年配の男が二人、何も言わずグラスを合わせる。乾杯。午後の風が、優しい。

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西の空 沈む太陽 大きくて
山も野原も真っ赤に染める

西の空を見る。太陽が沈んでゆく。太陽は大きく、周りを赤く染める。まるですべてを焼き尽くしてしまうかのようだ。山も野原も、みんな真っ赤に染まっている。あたりが闇に包まれる前の一瞬の景色。なんだかせつない。

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同じ場所を同じ時間に歩く人
誰かと一緒か ひとりで食べるか

朝食を食べながら道行く人たちを眺めていると、同じ時間に同じ場所を同じ方向に歩いてゆく人に気づく。それも、毎日のように。何人も。朝食を買いに行くのか、帰りには行きには持っていなかった袋を下げ、足早に通り過ぎる。どこかで帰りを待つ人と一緒に朝食か、それともひとりでか。

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そのツアー よく知らないで申し込み
老いを感じる洞窟探検

インターネットで見つけた国立公園のなかにある洞窟に行くツアー。自力では行けない場所に連れて行ってくれるからと、軽い気持ちで申し込んだ。注意事項も読まず、迎えに来たバンに乗る。海に着くと、沖のボートに乗れという。仕方なく靴と靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げて、海に入って行った。でも、どうやってボートに乗るんだろう? これが洞窟ツアーか? な、な、なんなのだ?

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山の奥上って下ってその先に
日のひかり差す 神々しくも

靴を脱ぎ、海に入り、ボートに乗り、岬をまわり、ボートを降り、砂浜を歩き、足を洗い、靴を履き、石段を登り、石段を下り、暗い洞窟を抜けると、そこには宮殿という名の神々しい建物があった。日の光が差し込み、神秘的な光景が広がっている。疲れを忘れるとは、このことか。

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石段がなかった頃に登って来た
修行僧の孤独を想う

洞窟の中には、修行僧が暮らしていたという場所があり、奥に寝ていたという場所があった。食べ物がないから、毎日のように麓の村々へ托鉢に降りて行かなければならなかったという。石段のない急な山道をどうやって降り、そして登ったのだろう。足をくじいたりしたときは、どうしたのだろう。さぞや孤独だっただろうに。

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自由時間 泳げと言われて泳げない
自由という名の不自由が嫌

洞窟に行くツアーに参加し、洞窟に感激し、セットされた昼食を食べ、その後自由時間が与えられた。ツアーガイドは泳げと言う。カナダ人のカップルとオーストラリア人の女性は素直に泳ぎに行く。韓国系アメリカ人は海辺を彷徨う。私たちは所在なげに、集合場所のあたりに座る。自由というのは、とても不自由だ。

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よく登って来たねユーアーストロング
アイムストロング 年の割には

石段を登りきったあたりで「よく登って来たね、ユーアーストロング」と言われる。でもそれって、年の割にはっていう意味でしょ? って意味を込めて「イェース、アイムストロング」と返す。そう、年をとると ひねくれるんだよ、誰だって。

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日本語を三年勉強したけれど
日本人客 ひとりも来ない

日本からの観光客が多かった頃に、日本語を知っていれば儲かるだろうと、必死で日本語を勉強したガイド。日本からの観光客が減り、日本語は忘れてしまったと笑う。ごめんね。でも、僕が悪いわけじゃないんだよ。

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こんなにも掃除が好きな人たちが
なぜ道端をきれいにしない

掃除してあるところと、そうでないところとの、ギャップが大きい。道端はともかくとして、空き地という空き地が、ゴミだらけ。箒を持った人を多く見かける割には、汚いところが多い。なぜなんだろう。

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砂のうえ波打ち際で海を見る
寄せ来る波に永遠を思う

砂のうえにタオルを敷いて、波打ち際で低い視線で海を見ていた。波は次から次へと寄せてくる。終わりがない。寄せ来る波は、永遠を感じさせる。この波が止まるのは、いったい、どういう時なのだろう。

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