2025年1月15日~21日
立ち止まり沈む夕日に何想う
別れた男か返らぬ日々か
パタヤの豪華ホテルの海岸に突き出たプールにやってきた女が、連れの男の要求に応じて夕日をバックにさまざまなポーズをとって楽しんでいた。その後、男の後をついてホテルに戻るときに、女は一瞬立ち止まり、夕日を眺める。笑顔が消え、顔には別人の表情が浮かんだ。
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通り見て渡るそぶりも見せぬまま
隣の店に消えゆく老人
パタヤの両替所から出てきた老いた男が、両替所の向かいの女たちがたむろするバーのほうをしばらく見ていたが、結局道を渡ることなく、両替所の隣の大麻ショップのなかに消えていった。人生に疲れた男には、女より大麻のほうがいいのだろうか。
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左手に抱かれた女の嬌声が
雑踏のなかの音を消し去る
かつてカネのあった国の男たちが、パタヤに来て黄昏れている。いまカネのある国の男たちが、パタヤに来てギャンブルに呆ける。黄昏れている男にぶら下がる女。ギャンブルに呆ける男にぶら下がる女。カネのためとはいえ、どの笑顔も寂しい。
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逃げることに後ろめたさを感じつつ
明日のことは風に任せる
自分の国では戦争をしているというのに、パタヤの高級ホテルのプールサイドに現れた男。隣の女はそんなことは気にかけず、飲み物を頼んだりタオルを敷いたりと忙しくしている。愁いを含んだ瞳には、どうしようもない諦めが宿っている。
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幸せの時間を突然遮られ
怒ってみるか笑ってみるか
男は、女とその家族をホテルのプールサイドに招いて、楽しい時間を過ごしていた。そこにホテルのセキュリティーが現れ、外部の人がホテルの施設を使うのは禁止されていると告げる。男は、自分は客だと言って抗議をしたが、受け入れられることはなかった。
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手をつなぎ道を渡ろういちにのさん
長い月日を駆け抜けたように
パタヤで道路を横断するのは難しい。譲ってばかりではいつまでたっても渡れないし、かといって命をかけるわけにもいかない。しばらくの躊躇の後、手をつないで思い切って渡る。50年という年月があっという間にすぎたように、気がつけば道の反対側にいる。
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どのピザか選べずにいるおばあさん
買わずに帰る足取り軽し
ピザを買い求める列の先頭にいたロシア人のおばあさんが、後ろに並んだ人たちのことなど気にもせず、どのピザを買うか決められず迷い続けていた。ああでもないこうでもないと迷った挙句、何も買わずに帰っていったのだが、その後ろ姿はなんとも軽やかだった。
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遠い国の コインランドリー使えずに
人の助けにあたたかみを知る
どの洗剤にしたらいいか、どう両替してコインを手にいれるのか、などなど、コインランドリーの前で呆然としている私たちを、タイ語しか話せない女性が、いろいろやって助けてくれる。その人の心のあたたかさに、自然と頭をさげる。
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食べるのが怖いとカラダが言っている
大丈夫だとアタマが言うのに
地元の人が食べに入る食堂や道端の屋台で食べる勇気は、なかなかわいてこない。「みんな食べてるじゃないか」「食べても平気だよ」と自分に言い聞かせても、カラダが言うことを聞かない。アタマよりもカラダに正直な自分がいる。
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朝が来て魔法が消えて目が覚めて
それでも人は生き続けている
夜に賑わう歓楽街の朝は、空しい。誰もが呆けた顔をして、疲れ果てている。眩いばかりの光と耳をつんざくような轟音のなかで光り輝いていた人が、朝のひかりのなかで静かにタバコをふかす。美しいと思ってもそれはまぼろし。歓楽街に美しい人はいない。
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仕方なく未来のために稼ぐのか
いま稼ぐのが楽しいなのか
カネのために、いやいや働いている人がいる。本当はこんなことをしたくないのだ、私はこんなことをする人間ではないのだ、そう顔に書いてある。そうかと思うと、働くのが楽しくて楽しくてという人もいる。楽しさが顔にあらわれている。どちらも、無表情の人たちとは違う。
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狂乱の名残が残る繁華街
悔しいなのか寂しいなのか
昨晩は賑わっただろう繁華街を、朝に散歩すると、特別な気分になる。スイッチの切られたアンプやスピーカー。きれいに拭かれたテーブル。ゴミの消えた床。疲れたからだを休める人たち。界隈に残るのは、悔しさなのだろうか。それとも寂しさなのか。
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道端で動かぬ犬が痛ましい
死んだふりとは思わぬものを
クルマの行きかう道の端で、犬が倒れていた。ピクリとも動かない。どうすることもできず、そのまま通りすぎたのだが、何もしなかったことに心が痛んだ。翌日同じ場所を通ると、犬が同じように倒れている。と思ったら、急にあたまをもたげる。なんだ、死んだふりだったのか。
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混沌は生き抜くための逞しさ
貧しささえも明るさになる
豊かさいっぱいの丘の上から、貧しさいっぱいの港のあたりに下りてゆく。そこに待ち受けていたのは、人々が生きてゆく逞しさにあふれる混沌と、活気に満ちた明るい貧しさ。しつこく付きまとうトゥクトゥクの運転手も物売りたちも、みんな明るかった。
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ゆっくりと時間はすぎてきたけれど
すぎてしまえば束の間のこと
予定を立てたときは長すぎるかと思えたこの滞在も終わりが近づき、プールが、海が、陽が、風が、木々が、鳥が、目の前で織りなしたいろいろな情景にも、終わりが来る。こんなのんびりとした時間を君とすごすことができて、僕は嬉しい。
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