2024年9月27日(金)
自然という不自然
今週の書物/
『The Hidden Life of Trees』
Peter Wohlleben 著、Jane Billinghurst 訳
Greystone Books (2015)
『Das geheime Leben der Bäume』
Peter Wohlleben 著、
Ludwig Buchverlag (2015), Heyne Verlag (2019)
『樹木たちの知られざる生活』
ペーター・ヴォールレーベン著、長谷川 圭訳
早川書房、2018年刊
Google によると、世界に存在する全ての本の数は1億2986万4880冊だという。Google がどんな計算をしようと、確かなのことがある。本の数はとてつもなく多いということだ。人が一生に読む本の数は、平均2000冊にも満たないという記事を見つけた。どんな読書家も、本のほとんどを読まずに一生を終える。
ほとんどの人に知り合わず、ほとんどの本に出合わない人生のなかで、どんな人と知り合い、どんな本と出会いのかは重要だ。どんなふうな出会いであっても、どんな偶然であっても、必然に思える。本屋で、図書館で、書評で、広告で。人生を変えるような本との出会いがあれば、運がいい。
人生を変えるような本が いい本であれば、もう言うことはない。私にとってのそんな本が、今週取り上げる『The Hidden Life of Trees』(Peter Wohlleben著、Jane Billinghurst訳、Greystone Books (2015))だ。『Das geheime Leben der Bäume』(Peter Wohlleben著、Ludwig Buchverlag (2015), Heyne Verlag (2019))の英訳で、日本語訳『樹木たちの知られざる生活』(ペーター・ヴォールレーベン著、長谷川 圭訳、早川書房、2018年刊)も出版されている。
Peter Wohlleben は、ドイツの Rottenburg am Neckar にある林業学校を卒業後、Rhineland-Palatinate 州政府の森林保護官として20年以上働いた。森林管理の仕事を始めた頃には「この木はいくらになるだろうか」「この木から どれだけの板がつくれるだろうか」としか考えていなかった著者が、樹木たちのことを深く知り、子どもの頃に感じていた樹木たちへの愛を取り戻してゆく。
森林管理の仕事を通して身につけた著者の考えは、示唆に富んでいる。「私たちの森林は手つかずの自然ではない」「何もしないこと(人が手を加えないこと)こそが自然保護」「森林の生態系を人のために必要以上に利用していいのか?」「木々に不必要な苦しみを与えてもいいのか?」というようなメッセージ性の強い考えが次々に出てくる。
こういう考えは、神道の起源にも通じる。著者の自然の捉え方は、「自然のなかに神を感じる」「自然のなかで命を感じる」「山や岩、木や滝などにも神が宿る」といった自然崇拝と 根は同じ。人は所詮、自然の一部なのだ。
もっと謙虚になって、人だけではなく、動物だけでもなく、あらゆる生き物の尊厳を尊重する。あらゆる生き物の能力、感情、望みなどがよりよくわかるようになれば、人と生き物との付き合い方も変化していくのではないか。著者の文章は説得力がある。
コミュニケーションのことを考えるとき、自分たちのことしか考えていない私たちは、五感のなかの視覚と聴覚を思い浮かべる。口から発せられた声は 耳から脳に伝わり理解される。紙の上に書かれた文字やスクリーン上の文字は 目から脳に伝わり理解される。それがコミュニケーションだと思っている。
蠅の視覚は、人の視覚とは違う。蠅は、人とは違うものを見ている。蠅は 人には見えないものを見ているし、人は 蠅には見えないものを見ている。同じように、犬の聴覚や嗅覚は、人の聴覚や嗅覚とは、大きく違う。
違うからといって、蠅や犬がコミュニケートしていないというわけではない。確かに 蠅も犬も言葉を持っていない。でも 違った感覚を使ってコミュニケートしている。私たちにわからないだけなのだ。
そして木も、他の木とコミュニケートしている。キリンに葉を食べられたアカシアは、キリンの嫌がるエチレンを発散する。エチレンを感じたまわりの木は、いざというときのためにエチレンを準備しはじめる。
他にも さまざまな例がある。ブナもトウヒもナラも、虫に葉をかじられると、かじられたまわりの組織を虫が嫌がるように変化させ、身を守ろうとする。さらに人体と同じように、電気信号を走らせる。ゆっくりとだが、木の他の部分に危険を知らせるのだ。
私たちはわかったような顔をして 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のことを五感というが、人のことだけを考えても 他の感覚がたくさん浮かんでくる。痛覚、温度覚、圧覚、位置覚、振動覚、二点識別覚、立体識別覚、内臓感覚、平衡感覚などだ。動物や植物に私たちの知らない感覚があって、それを使ってコミュニケートされていても、何の不思議もない。
木がコミュニケートしていると知れば、木が生きているという実感がわく。木が生きていると知れば、私たちの木に対する態度も変わるだろう。私たちの木に対する態度が変われば、行動も変わってくるに違いない。
アメリカで デイヴ・マシューズ・バンド(Dave Matthews Band)というバンドが活動していて、社会的な歌を多く演奏するためか アダルトロックなんていうカテゴリーに入れられているのだが、メンバーも曲も いい意味でアメリカっぽい。
そのバンドが「Together We Can Plant Millions of Trees」という運動をしている。一緒に何百万本もの木を植えようというわけだ。デイヴ・マシューズも その仲間たちも、「森に緑を取り戻そう」「失われた森を復活させよう」という善意から運動していて、好感が持てる。
でも、と思う。でも、デイヴ・マシューズが『The Hidden Life of Trees』を読んで Peter Wohlleben に共感するなんていうことがあったら、「木を植える」より「ほったらかしにする」ほうがいいと思うかもしれない、と思う。
デイヴ・マシューズ・バンドだけではない。多くの環境問題に興味を持っている人たちの考え方は、あまりにも人間中心的だ。人間が作ってきた自然でなく、人間が手を入れる前の自然のほうが、はるかに「自然」ではないか。
オーストラリアで、森林火災のすぐ後、鎮火をしたというタイミングで現場周辺を運転したことがある。まる焦げになったユーカリの木々が続く景色は異様だったが、交通標識が溶けてしまうようななかで、真っ黒に焼けているのに 目にも鮮やかな緑の芽を出しているユーカリの生命力には心を打たれた。
ただ、山火事が大きくなった原因がユーカリだと聞いて、「うん?」「えっ?」と心は揺れた。ユーカリの葉はテルペンを放出するのだが、テルペンは引火性なので、何かの原因で発火したら燃え広がって大きな山火事になる。ユーカリの樹皮は燃えやすく、火がつくと幹から剥がれ落ちるのだが、幹の内側は燃えずに守られる。ユーカリの根は栄養をたくわえていて、火事の後も成長し続けることができ、新しい芽を出す。ということのようなのだ。
美しい花をつけ かぐわしい香りを放ち 鳥や動物を惹きつけ続けてきたユーカリが、長年にわたって邪魔に思ってきた下草や低木を焼き尽くし、焼畑農業のように土壌を良くする。ユーカリが、そんなことを何百年何千年何万年も繰り返してきたなかに 人が入って行って家を建て、家が焼かれたと言って大騒ぎする。人にとって山火事は迷惑なことに違いないのだが、ユーカリにとってみれば 消火活動のほうが迷惑なのだろう。
人間のための木という発想を捨て、つまり「人にいい森」「人の経済活動に役立つ森」とか「人が見て美しい森」「観光資源としての森」を追い求めるのをやめて、人間が手を入れない森を少しずつでも取り戻していったほうが いいのではないか。
この本を読むと、本気でそんなことを考えてしまう。反文明というような大げさな考えではない。少しずつ、人が壊してしまったものを 元に戻せはしないかと、そう考えているだけなのだ。
マッシモ・マッフェイ(Massimo Emilio Maffei)によると、樹木に限らず植物というものは、自分の根とほかの種類の植物の根、また同じ種類のであっても自分の根とほかの根を、しっかりと区別しているという。少し長くなるが、『The Hidden Life of Trees』から数パラグラフを引用してみよう。
樹木はなぜ、社会をつくるのだろう? どうして、自分と同じ種類だけでなく、ときにはライバルにも栄養を分け合うのだろう? その理由は、人間社会と同じく、協力することで生きやすくなることにある。木が一本しかなければ森はできない。森がなければ風や天候の変化から自分を守ることもできない。バランスのとれた環境もつくれない。
逆に、たくさんの木が手を組んで生態系をつくりだせば、暑さや寒さに抵抗しやすくなり、たくさんの水を蓄え、空気を適度に湿らせることができる。木にとってとても棲みやすい環境ができ、長年生長を続けられるようになる。だからこそ、コミュニティを死守しなければならない。一本一本が自分のことばかり考えていたら、多くの木が大木になる前に朽ちていく。死んでしまう木が増えれば、森の木々はまばらになり、強風が吹き込みやすくなる。倒れる木も増える。そうなると夏の日差しが直接差し込むので土壌も乾燥してしまう。誰にとってもいいことはない。
森林社会にとっては、どの木も例外なく貴重な存在で、死んでもらっては困る。だからこそ、病気で弱っている仲間に栄養を分け、その回復をサポートする。数年後には立場が逆転し、かつては健康だった木がほかの木の手助けを必要としているかもしれない。互いに助け合う大きなブナの木などを見ていると、私はゾウの群れを思い出す。ゾウの群れも互いに助け合い、病気になったり弱ったりしたメンバーの面倒を見ることが知られている。ゾウは、死んだ仲間を置き去りにすることさえためらうという。
私はこういう文章を読んで、植物や動物のほうが 人よりもはるかに人間らしいと感じてしまう。近代化と ともに、多くの人たちが狂い、壊れてしまったのではないか。私には そんなふうに思える。
Peter Wohlleben は「すべての人工林を 原始林に戻そう」などとは言わない。その代わりに「もっと木のことを知ろう」と言う。「木のコミュニケーションを解明しよう」「森に足を踏み入れて想像の翼を羽ばたかせよう」という Peter Wohlleben は、環境会議で出会う環境問題の専門家とはすべてにおいて違う。
Peter Wohlleben は木のことをよく知っている。そして木をとても大事にしている。私はこの人のことが大好きだし、この本が好きだ。本当にいい本に出会った。そう思っている。
Das geheime Leben der Bäume: Was sie fühlen, wie sie kommunizieren – die Entdeckung einer verborgenen Welt
by Peter Wohlleben
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Peter Wohlleben – Das geheime Leben der Bäume
https://youtu.be/ku21HGFT7x8
Sprache ist laut Duden die Fähigkeit des Menschen, sich auszudrücken. So gesehen können nur wir sprechen, weil der Begriff auf unsere Spezies beschränkt ist. Doch wäre es nicht interessant zu wissen, ob auch Bäume sich ausdrücken können? Aber wie? Zu hören ist jedenfalls nichts, denn sie sind definitiv leise. Das Knarren von scheuernden Ästen im Wind, das Rascheln des Laubs geschehen ja passiv und werden von den Bäumen nicht beeinflusst. Sie machen sich jedoch anders bemerkbar: durch Duftstoffe. Duftstoffe als Ausdrucksmittel? Auch uns Menschen ist das nicht unbekannt: Wozu sonst werden Deos und Parfüms benutzt? Und selbst ohne deren Verwendung spricht unser eigener Geruch gleichermaßen das Bewusstsein und Unterbewusstsein anderer Menschen an. Einige Personen kann man einfach nicht riechen, andere hingegen ziehen einen durch ihren Duft stark an. Nach Ansicht der Wissenschaft sind die im Schweiß enthaltenen Pheromone sogar ausschlaggebend dafür, welchen Partner wir auswählen, mit wem wir also Nachkommen zeugen wollen. Wir besitzen demnach eine geheime Duftsprache, und zumindest das können Bäume auch vorweisen.
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The Hidden Life of Trees: What They Feel, How They Communicate―Discoveries from a Secret World
by Peter Wohlleben
translated by Jane Billinghurst
Are trees social beings? In this international bestseller, forester and author Peter Wohlleben convincingly makes the case that, yes, the forest is a social network. He draws on groundbreaking scientific discoveries to describe how trees are like human families: tree parents live together with their children, communicate with them, support them as they grow, share nutrients with those who are sick or struggling, and even warn each other of impending dangers. Wohlleben also shares his deep love of woods and forests, explaining the amazing processes of life, death, and regeneration he has observed in his woodland.
The Hidden Life of Trees: The Illustrated Edition
by Peter Wohlleben
translated by Jane Billinghurst
(Google Translate)
Language, according to Duden, is man’s ability to express himself. In this sense, only we can speak, because the term is limited to our species. But would not it be interesting to know if trees can express themselves? But how? At any rate, nothing can be heard, because they are definitely quiet. The creaking of rubbing branches in the wind, the rustling of the foliage happen passively and are not affected by the trees. However, they make themselves felt differently: by fragrances. Fragrances as a means of expression? This is not unknown to us humans: why else are deodorants and perfumes used? And even without their use, our own smell equally appeals to the consciousness and subconscious of other people. Some people just can not smell it, others, however, attract a strong by their scent. According to science, the pheromones contained in the sweat even determine which partner we choose, with whom we want to produce offspring. So we have a secret scent language, and at least that’s what trees can do.
La Vie secrète des arbres
par Peter Wohlleben
Les citadins regardent les arbres comme des “robots biologiques” conçus pour produire de l’oxygène et du bois. Forestier, Peter Wohlleben a ravi ses lecteurs avec des informations attestées par les biologistes depuis des années, notamment le fait que les arbres sont des êtres sociaux. Ils peuvent compter, apprendre et mémoriser, se comporter en infirmiers pour les voisins malades. Ils avertissent d’un danger en envoyant des signaux à travers un réseau de champignons appelé ironiquement “Bois Wide Web”. La critique allemande a salué unanimement ce tour de force littéraire et la manière dont l’ouvrage éveille chez les lecteurs une curiosité enfantine pour les rouages secrets de la nature.
(Google Translate)
La langue, selon Duden, est la capacité de l’homme à s’exprimer. En ce sens, nous ne pouvons parler que parce que le terme est limité à notre espèce. Mais ne serait-il pas intéressant de savoir si les arbres peuvent s’exprimer? Mais comment? En tout cas, rien ne peut être entendu, car ils sont définitivement silencieux. Le craquement des branches qui frottent dans le vent, le bruissement du feuillage se produisent passivement et ne sont pas affectés par les arbres. Cependant, ils se font sentir différemment: par les parfums. Les parfums comme moyen d’expression? Ce n’est pas inconnu de nous les humains: pourquoi les déodorants et les parfums sont-ils utilisés? Et même sans leur utilisation, notre propre odeur fait également appel à la conscience et au subconscient des autres. Certaines personnes ne peuvent tout simplement pas le sentir, d’autres, cependant, attirent un fort par leur odeur. Selon la science, les phéromones contenues dans la sueur déterminent même quel partenaire nous choisissons, avec qui nous voulons produire une progéniture. Nous avons donc un langage de parfum secret, et du moins c’est ce que les arbres peuvent faire.
樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
野生の樹木は、100歳前後でも鉛筆ほどの太さで、人間程度の高さしかない。親木に光を遮られ、ゆっくりと成長するので内部の細胞がとても細かく、空気をほとんど含まない。おかげで柔軟性が高く、抵抗力も強く育つのだ。また、ヨーロッパの原生林の中は深い暗闇だ。草や低木が育たず、親木の幹ばかりが大聖堂の柱のようにそびえ立っている。だが、産業用の人工林では最高でも80年から120年で伐採が行われ、中に光が降りそそぐ。すると草や茂みで鬱蒼とした、ジャングルのような森になるのだ。
(Google Translate)
Dudenによると、言語は人間の自己表現能力です。この意味では、言葉は私たちの種に限られているので、私たちは話すことができます。しかし、木が自分自身を表現できるかどうかを知ることは面白くないでしょうか?しかしどうですか?とにかく、彼らは間違いなく静かなので、何も聞こえません。風に枝をこすり、葉のさびきが受動的に起こり、木々の影響を受けません。しかし、彼らは香りによって違った感じをしています。表現の手段としての香り?これは私たち人間には不明ではありません:なぜ他に消臭剤や香水が使われていますか?そして、たとえ使用しなくても、私たち自身の匂いは、他の人々の意識と潜在意識に等しく訴えます。他の人が彼らの香りをたくさん引き付ける間に、いくつかの人々はちょうど匂いをすることができません。科学によれば、汗に含まれるフェロモンは、我々が子孫を作りたい相手と、私たちが選んだパートナーを決定する。だから我々は秘密の香りの言葉を持っており、少なくともそれは木ができることである。
The Hidden Life of Trees: What They Feel, How They Communicate: Discoveries from a Secret World
by Peter Wohlleben
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– The Language of Trees –
Plants communicate through complex and varied systems
According to the dictionary definition, language is what people use when we talk to each other. Looked at this way, we are the only beings who can use language, because the concept is limited to our species. But wouldn’t it be interesting to know whether trees can also talk to each other? But how? They definitely don’t produce sounds, so there’s nothing we can hear. Branches creak as they rub against one another and leaves rustle, but these sounds are caused by the wind and the tree has no control over them. Trees, it turns out, have a completely different way of communicating: they use scent.
Scent as a means of communication? The concept is not totally unfamiliar to us. Why else would we use deodorants and perfumes? And even when we’re not using these products, our own smell says something to other people, both consciously and subconsciously. There are some people who seem to have no smell at all; we are strongly attracted to others because of their aroma. Scientists believe pheromones in sweat are a decisive factor when we choose our partners—in other words, those with whom we wish to procreate. So it seems fair to say that we possess a secret language of scent, and trees have demonstrated that they do as well.
For example, four decades ago, scientists noticed something on the African savannah. The giraffes there were feeding on umbrella thorn acacias, and the trees didn’t like this one bit. It took the acacias mere minutes to start pumping toxic substances into their leaves to rid themselves of the large herbivores. The giraffes got the message and moved on to other trees in the vicinity. But did they move on to trees close by? No, for the time being, they walked right by a few trees and resumed their meal only when they had moved about 100 yards away.
The reason for this behaviour is astonishing. The acacia trees that were being eaten gave off a warning gas (specifically, ethylene) that signalled to neighbouring trees of the same species that a crisis was at hand. Right away, all the forewarned trees also pumped toxins into their leaves to prepare themselves. The giraffes were wise to this game and therefore moved farther away to a part of the savannah where they could find trees that were oblivious to what was going on. Or else they moved upwind. For the scent messages were carried to nearby trees on the breeze, and if the animals walked upwind, they could find acacias close by that had no idea the giraffes were there.
Similar processes are at work in our forests here at home. Beeches, spruce, and oaks all register pain as soon as some creature starts nibbling on them. When a caterpillar takes a hearty bite out of a leaf, the tissue around the site of the damage changes. In addition, the leaf tissue sends out electrical signals, just as human tissue does when it is hurt. However, the signal is not transmitted in milliseconds, as human signals are; instead, the plant signal travels at the slow speed of a third of an inch per minute. Accordingly, it takes an hour or so before defensive compounds reach the leaves to spoil the pest’s meal. Trees live their lives in the really slow lane, even when they are in danger. But this slow tempo doesn’t mean that a tree is not on top of what is happening in different parts of its structure. If the roots find themselves in trouble, this information is broadcast throughout the tree, which can trigger the leaves to release scent compounds. And not just any old scent compounds, but compounds that are specifically formulated for the task at hand.
This ability to produce different compounds is another feature that helps trees fend off attack for a while. When it comes to some species of insects, trees can accurately identify which bad guys they are up against. The saliva of each species is different, and the tree can match the saliva to the insect. Indeed, the match can be so precise that the tree can release pheromones that summon specific beneficial predators. The beneficial predators help the tree by eagerly devouring the insects that are bothering them. For example, elms and pines call on small parasitic wasps that lay their eggs inside leaf-eating caterpillars. As the wasp larvae develop, they devour the larger caterpillars bit by bit from the inside out. Not a nice way to die. The result, however, is that the trees are saved from bothersome pests and can keep growing with no further damage. The fact that trees can recognize saliva is, incidentally, evidence for yet another skill they must have. For if they can identify saliva, they must also have a sense of taste.
A drawback of scent compounds is that they disperse quickly in the air. Often they can only be detected within a range of about 100 yards. Quick dispersal, however, also has advantages. As the transmission of signals inside the tree is very slow, a tree can cover long distances much more quickly through the air if it wants to warn distant parts of its own structure that danger lurks. A specialized distress call is not always necessary when a tree needs to mount a defence against insects. The animal world simply registers the tree’s basic chemical alarm call. It then knows some kind of attack is taking place and predatory species should mobilize. Whoever is hungry for the kinds of critters that attack trees just can’t stay away.
Trees can also mount their own defence. Oaks, for example, carry bitter, toxic tannins in their bark and leaves. These either kill chewing insects outright or at least affect the leaves’ taste to such an extent that instead of being deliciously crunchy, they become biliously bitter. Willows produce the defensive compound salicylic acid, which works in much the same way. But not on us. Salicylic acid is a precursor of aspirin, and tea made from willow bark can relieve headaches and bring down fevers. Such defence mechanisms, of course, take time. Therefore, a combined approach is crucially important for arboreal early-warning systems.
Trees don’t rely exclusively on dispersal in the air, for if they did, some neighbours would not get wind of the danger. Suzanne Simard of the University of British Columbia in Vancouver has discovered that they also warn each other using chemical signals sent through the fungal networks around their root tips, which operate no matter what the weather. Surprisingly, news bulletins are sent via the roots not only by means of chemical compounds but also by means of electrical impulses that travel at the speed of a third of an inch per second. In comparison with our bodies, it is, admittedly, extremely slow. However, there are species in the animal kingdom, such as jellyfish and worms, whose nervous systems conduct impulses at a similar speed. Once the latest news has been broadcast, all oaks in the area promptly pump tannins through their veins.
Tree roots extend a long way, more than twice the spread of the crown. So the root systems of neighbouring trees inevitably intersect and grow into one another—though there are always some exceptions. Even in a forest, there are loners, would-be hermits who want little to do with others. Can such antisocial trees block alarm calls simply by not participating? Luckily, they can’t. For usually there are fungi present that act as intermediaries to guarantee quick dissemination of news. These fungi operate like fibre-optic Internet cables. Their thin filaments penetrate the ground, weaving through it in almost unbelievable density. One teaspoon of forest soil contains many miles of these ‘hyphae’. Over centuries, a single fungus can cover many square miles and network an entire forest. The fungal connections transmit signals from one tree to the next, helping the trees exchange news about insects, drought, and other dangers. Science has adopted a term first coined by the journal Nature for Simard’s discovery of the ‘wood wide web’ pervading our forests. What and how much information is exchanged are subjects we have only just begun to research. For instance, Simard discovered that different tree species are in contact with one another, even when they regard each other as competitors. And the fungi are pursuing their own agendas and appear to be very much in favour of conciliation and equitable distribution of information and resources.
If trees are weakened, it could be that they lose their conversational skills along with their ability to defend themselves. Otherwise, it’s difficult to explain why insect pests specifically seek out trees whose health is already compromised. It’s conceivable that to do this, insects listen to trees’ urgent chemical warnings, and then test trees that don’t pass the message on by taking a bite out of their leaves or bark. A tree’s silence could be because of a serious illness or, perhaps, the loss of its fungal network, which would leave the tree completely cut off from the latest news. The tree no longer registers approaching disaster, and the doors are open for the caterpillar and beetle buffet. The loners I just mentioned are similarly susceptible—they might look healthy, but they have no idea what is going on around them.
In the symbiotic community of the forest, not only trees but also shrubs and grasses—and possibly all plant species—exchange information this way. However, when we step into farm fields, the vegetation becomes very quiet. Thanks to selective breeding, our cultivated plants have, for the most part, lost their ability to communicate above or below ground—you could say they are deaf and dumb—and therefore they are easy prey for insect pests. That is one reason why modern agriculture uses so many pesticides. Perhaps farmers can learn from the forests and breed a little more wildness back into their grain and potatoes so that they’ll be more talkative in the future.
Communication between trees and insects doesn’t have to be all about defense and illness. Thanks to your sense of smell, you’ve probably picked up on many feel-good messages exchanged between these distinctly different lifeforms. I am referring to the pleasantly perfumed invitations sent out by tree blossoms. Blossoms do not release their scent at random or to please us. Fruit trees, willows, and chestnuts use their olfactory missives to draw the attention of passing bees and invite them in to sate themselves. Sweet nectar, concentrated sugar juice, is the reward for the dusting the insects receive while they visit. The form and color of blossoms is another signal, somewhat like a billboard that clearly stands out from the general green of the tree canopy and points the way to a snack.
So, trees communicate by means of olfactory, visual, and electrical signals. (The electrical signals travel via a form of nerve cell at the tips of the roots.) What about sounds? Let’s get back to hearing and speech. When I said at the beginning of this chapter that trees are definitely silent, the latest scientific research casts doubt even on this statement. Along with colleagues from Bristol and Florence, Monica Gagliano from the University of Western Australia has, quite literally, had her ear to the ground.6 It’s not practical to study trees in the laboratory, therefore researchers substitute grain seedlings because they are easier to handle. They started listening, and it didn’t take them long to discover that their measuring apparatus was registering roots crackling quietly at a frequency of 220 hertz. Crackling roots? That doesn’t necessarily mean anything. After all, even dead wood crackles when it’s burned in a stove. But the noises discovered in the laboratory caused the researchers to sit up and pay attention. For the roots of seedlings not directly involved in the experiment reacted. Whenever the seedlings’ roots were exposed to a crackling at 220 hertz, they oriented their tips in that direction. That means the grasses registered this frequency, so it makes sense to say they “heard” it.
Plant communicating by means of sound waves? That makes me curious to know more, because people are also set up to communicate using sound. Might this be a key to getting to know trees better? To say nothing of what it would mean if we could hear whether all was well with beeches, oaks, and pines, or whether something was up. Unfortunately, we are not that far advanced, and research in this field is just beginning. But if you hear a light crackling sound the next time you go for a walk in the woods, perhaps it won’t be just the wind…
Das geheime Leben der Bäume: Was sie fühlen, wie sie kommunizieren – die Entdeckung einer verborgenen Welt
Peter Wohlleben
Erstaunliche Dinge geschehen im Wald: Bäume, die miteinander kommunizieren. Bäume, die ihren Nachwuchs, aber auch alte und kranke Nachbarn liebevoll umsorgen und pflegen. Bäume, die Empfindungen haben, Gefühle, ein Gedächtnis. Unglaublich? Aber wahr! – Der Förster Peter Wohlleben erzählt faszinierende Geschichten über die ungeahnten und höchst erstaunlichen Fähigkeiten der Bäume. Dazu zieht er die neuesten wissenschaftlichen Erkenntnisse ebenso heran wie seine eigenen unmittelbaren Erfahrungen mit dem Wald und schafft so eine aufregend neue Begegnung für die Leser: Wir schließen Bekanntschaft mit einem Lebewesen, das uns vertraut schien, uns aber hier erstmals in seiner ganzen Lebendigkeit vor Augen tritt. Und wir betreten eine völlig neue Welt …
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Hätten Sie gewußt, daß Buchen gerne kuscheln? Ja, auch wenn sie sehr nahe beieinanderstehen, konkurrieren sie keineswegs miteinander um Nährstoffe, Licht und Wasser, sondern bei Bedarf füttern sie sich wechselseitig – über das komplexe unterirdische Wurzel- und Pilzfädchensystem – mit Glucoselösung. Buchenkinder stehen sehr lange im Schatten ihrer Mutter, weshalb sie nur langsam wachsen können. Doch diese „Erziehung durch Lichtdrosselung“ führt zu wesentlich stabilerem Wachstum und somit auf lange Sicht zu überlebenstüchtigeren Buchen.
Bäume kommunizieren über Duftstoffe und über chemische sowie elektrische Signal-übertragungen miteinander. Werden beispielsweise die Blätter eines Baumes von Raupen angefressen, so teilt der befallene Baum dies seiner Nachbarschaft über Duftsignale mit. Sowohl der befallene Baum wie auch die benachbarten verändern daraufhin die chemische Zusammensetzung des Pflanzensafts in ihren Blättern – was von Bitterstoffen bis hin zu insektenspezifischen Giftstoffen reicht. Darüber hinaus verfügen Bäume auch über besondere Rettungslockdüfte, um natürliche Freßfeinde der angreifenden Insekten herbeizurufen.
Auch unterirdisch wird lebhaft kommuniziert. Ein Teelöffel Waldboden enthält mehrere Kiometer Pilzhypen. Der Vergleich dieser Pilzfäden mit der Glasfaservernetzung des Internets liegt nahe. Tatsächlich spricht man inzwischen schon vom „woodwideweb“.
The Hidden Life of Trees: what they feel, how they communicate : discoveries from a secret world
by Peter Wohlleben
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When trees grow together, nutrients and water can be optimally divided among them all so that each tree can grow into the best tree it can be. If you “help” individual trees by getting rid of their supposed competition, the remaining trees are bereft. They send messages out to their neighbors in vain, because nothing remains but stumps. Every tree now muddles along on its own, giving rise to great differences in productivity. Some individuals photosynthesize like mad until sugar positively bubbles along their trunk. As a result, they are fit and grow better, but they aren’t particularly long-lived. This is because a tree can be only as strong as the forest that surrounds it. And there are now a lot of losers in the forest. Weaker members, who would once have been supported by the stronger ones, suddenly fall behind. Whether the reason for their decline is their location and lack of nutrients, a passing malaise, or genetic makeup, they now fall prey to insects and fungi.
But isn’t that how evolution works? you ask. The survival of the fittest? Their well-being depends on their community, and when the supposedly feeble trees disappear, the others lose as well. When that happens, the forest is no longer a single closed unit. Hot sun and swirling winds can now penetrate to the forest floor and disrupt the moist, cool climate. Even strong trees get sick a lot over the course of their lives. When this happens, they depend on their weaker neighbors for support. If they are no longer there, then all it takes is what would once have been a harmless insect attack to seal the fate even of giants.
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When you know that trees experience pain and have memories and that tree parents live together with their children, then you can no longer just chop them down and disrupt their lives with larger machines.
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A tree’s most important means of staying connected to other trees is a “wood wide web” of soil fungi that connects vegetation in an intimate network that allows the sharing of an enormous amount of information and goods.
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But we shouldn’t be concerned about trees purely for material reasons, we should also care about them because of the little puzzles and wonders they present us with. Under the canopy of the trees, daily dramas and moving love stories are played out. Here is the last remaining piece of Nature, right on our doorstep, where adventures are to be experienced and secrets discovered. And who knows, perhaps one day the language of trees will eventually be deciphered, giving us the raw material for further amazing stories. Until then, when you take your next walk in the forest, give free rein to your imagination-in many cases, what you imagine is not so far removed from reality, after all!
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If we want to use forests as a weapon in the fight against climate change, then we must allow them to grow old, which is exactly what large conservation groups are asking us to do.
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There are more life forms in a handful of forest soil than there are people on the planet. A mere teaspoonful contains many miles of fungal filaments. All these work the soil, transform it, and make it so valuable for the trees.
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An organism that is too greedy and takes too much without giving anything in return destroys what it needs for life.
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Trees, it turns out, have a completely different way of communicating: they use scent.
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Forest air is the epitome of healthy air. People who want to take a deep breath of fresh air or engage in physical activity in a particularly agreeable atmosphere step out into the forest. There’s every reason to do so. The air truly is considerably cleaner under the trees, because the trees act as huge air filters. Their leaves and needles hang in a steady breeze, catching large and small particles as they float by. Per year and square mile this can amount to 20,000 tons of material. Trees trap so much because their canopy presents such a large surface area. In comparison with a meadow of a similar size, the surface area of the forest is hundreds of times larger, mostly because of the size difference between trees and grass. The filtered particles contain not only pollutants such as soot but also pollen and dust blown up from the ground. It is the filtered particles from human activity, however, that are particularly harmful. Acids, toxic hydrocarbons, and nitrogen compounds accumulate in the trees like fat in the filter of an exhaust fan above a kitchen stove. But not only do trees filter materials out of the air, they also pump substances into it. They exchange scent-mails and, of course, pump out phytoncides, both of which I have already mentioned.
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But the most astonishing thing about trees is how social they are. The trees in a forest care for each other, sometimes even going so far as to nourish the stump of a felled tree for centuries after it was cut down by feeding it sugars and other nutrients, and so keeping it alive. Only some stumps are thus nourished. Perhaps they are the parents of the trees that make up the forest of today. A tree’s most important means of staying connected to other trees is a “wood wide web” of soil fungi that connects vegetation in an intimate network that allows the sharing of an enormous amount of information and goods. Scientific research aimed at understanding the astonishing abilities of this partnership between fungi and plant has only just begun. The reason trees share food and communicate is that they need each other. It takes a forest to create a microclimate suitable for tree growth and sustenance. So it’s not surprising that isolated trees have far shorter lives than those living connected together in forests. Perhaps the saddest plants of all are those we have enslaved in our agricultural systems. They seem to have lost the ability to communicate, and, as Wohlleben says, are thus rendered deaf and dumb. “Perhaps farmers can learn from the forests and breed a little more wildness back into their grain and potatoes,” he advocates, “so that they’ll be more talkative in the future.” Opening
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If a tree falls in the forest there are other trees listening.
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Every tree, therefore, is valuable to the community and worth keeping around for as long as possible. And that is why even sick individuals are supported and nourished until they recover. Next time, perhaps it will be the other way round, and the supporting tree might be the one in need of assistance. When thick silver-gray beeches behave like this, they remind me of a herd of elephants. Like the herd, they, too, look after their own, and they help their sick and weak back up onto their feet. They are even reluctant to abandon their dead.
Every tree is a member of this community, but there are different levels of membership. For example, most stumps rot away into humus and disappear within a couple of hundred years (which is not very long for a tree). Only a few individuals are kept alive over the centuries, like the mossy “stones” I’ve just described. What’s the difference? Do tree societies have second-class citizens just like human societies? It seems they do, though the idea of “class” doesn’t quite fit. It is rather the degree of connection-or maybe even affection-that decides how helpful a tree’s colleagues will be.
You can check this out for yourself simply by looking up into the forest canopy. The average tree grows its branches out until it encounters the branch tips of a neighboring tree of the same height. It doesn’t grow any wider because the air and better light in this space are already taken. However, it heavily reinforces the branches it has extended, so you get the impression that there’s quite a shoving match going on up there. But a pair of true friends is careful right from the outset not to grow overly thick branches in each other’s direction. The trees don’t want to take anything away from each other, and so they develop sturdy branches only at the outer edges of their crowns, that is to say, only in the direction of “non-friends.” Such partners are often so tightly connected at the roots that sometimes they even die together.
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This is because a tree can be only as strong as the forest that surrounds it.
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
まえがき
森林管理の仕事を始めたころ、私は樹木たちの秘密についてほとんど何も知らなかった。その状況は、人間が動物の気持ちをあまり知らないのとよく似ている。現代の林業は木を切り、新しい苗を植える。木材をつくるためだ。専門誌などを読んでいると、林業関係者は利益が出ているかぎり、森林の健康については関心をもとうとしないように思える。樹木を相手にするのはあくまで仕事にすぎないので、商売に必要なだけ育ってくれればいいというわけだろう。かくいう私もかつては視野が狭かった。毎日のように数百本のモミ、ブナ、ナラ、マツを眺めては、これはいくらになるだろうか、どれだけの板がつくれるだろうか、としか考えていなかったのだから。
二〇年前、私は観光客相手にサバイバル訓練やログハウスのツアーを企画する仕事を始めた。その後、樹木葬のための森の管理や、原生林の保護の仕事が加わった。森を訪れるたくさんの人との会話を通じて、狭かった私の視野が広がりはじめた。幹が曲がっていたり、表面がでこぼこしたりしている木など、以前の私なら価値がないとみなしていたものにこそ、人々が魅了されるとわかったからだ。おかげで私は、木の幹を眺めて値踏みするだけでなく、おかしな形の根っこや曲がった幹、幹を覆う柔らかな苔などにも注目するようになった。子どものころに感じていた自然への愛が、私の心にふたたび芽生えたのだ。
それ以来、奇跡や不思議にたくさん出会った。そうこうしているうちに、私の林営地でアーヘン工科大学の研究が行われるようにもなった。その研究を通じ、それまで私がかかえていたたくさんの疑問に答えが見つかった。だが同時に、新しい謎もたくさん生まれることになった。毎日のようにあらたな発見が続き、私の生活は楽しいものに変わっていった。
営林方法も、樹木の習性を尊重したやり方に変えることにした。人間と同じように木も傷みを感じ、記憶もある。木も親と子がいっしょに生活している。そういうことがわかった以上、手当たりしだいに木を切り倒し、大きな乗り物で樹木のあいだを走りまわる気になどならない。二〇年ほど前から、私の林営地では大型の機械を使わないようにしている。木を伐採したときは、作業員が馬を使って慎重に運び出す。健康な森−−−−幸せな森と言ってもいいかもしれない−−−−はそうでない森と比べると、はるかに生産的で、そこから得られる収入も多い。
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樹木は私たちを幸せにしてくれる。あなたも、今度森を散策するときには、大小さまざまな驚きを見つけるにちがいない。
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
友情
私が管理している森のなかに、古いブナの木が集まっている場所がある。数年前、そこで苔に覆われた岩を見つけた。それまでは、気づかずに通り過ぎていたのだろう。ところがある日、その岩が突然目に入った。近寄ってよく見ると、その岩は奇妙な形をしている。真ん中が空洞でアーチのようになっているのだ。苔を少しつまみ上げてみると、その下には木の皮があった。つまり、それは岩ではなく古い木だったのだ。
湿った土の上にあるブナの朽木は、通常は数年で腐ってしまう。だが驚いたことに、私が見つけたその木はとても硬かった。しかも、持ち上げることもできない。土にしっかり埋まっていたのだろう。ポケットからナイフを取り出し、樹皮の端を慎重にはがしてみた。すると緑色の層が見えてきた。緑色? 植物で緑といえばクロロフィルしか考えられない。新鮮な葉に含まれていて、幹にも蓄えられている ”葉緑素” である。これが意味するのはただ一つ、その木はまだ死んでいないということだ!
そこから半径一メートル半の範囲に散らばっていたほかの ”岩” の正体も明らかになった。どれも古い大木の切り株だった。切り株の表面の部分だけが残り、中身はとうの昔に朽ち果てたのだろう。察するに、400年から500年前にはすでに切り倒されていた木にちがいない。
では、どうして表面の部分だけがこれほどの長い年月を生き延びられたのだろうか? 木の細胞は栄養として糖分を必要とする。葉がなければ光合成もできない。つまり、普通に考えれば、呼吸も生長もできるはずがない。そのうえ、数百年間の飢餓に耐えられる生き物など存在しない。木の切り株も同じはずだ。少なくとも、孤立してしまった切り株は生き残ることができないだろう。
だが、私が見つけた切り株は孤立していなかった。近くにある樹木から根を通じて手助けを得ていたのだ。木の根と根が直接つながったり、根の先が菌糸に包まれ、その菌糸が栄養の交換を手伝ったりすることがある。目の前の “岩” がどのケースにあたるのかはわからなかった。とはいえ、無理やり掘り起こして確かめる気にはなれない。古い切り株を傷つけたくないからだ。
まわりの木がその切り株に糖液を譲っていたことだけは確かだ。だからこそ切り株は死なずにすんだ。栄養の受け渡しをするために根がつながっている姿は、土手などで観察できる。雨で土が流れて、地中にあった根がむきだしになっているのを見たことはないだろうか? 樹脂について研究した結果、根が同じ種類の木同士をつなぐ複雑なネットワークをつくっているのを発見した学者もいる。ご近所同士の助け合いにも似たこの “栄養素の交換” は規則的に行なわれているようだ。森林はアリの巣にも似た優れた組織なのである。
ここで一つの疑問が生じる。木の根は地中をやみくもに広がり、仲間の根に偶然出会ったときにだけ結ばれて、栄養の交換をしたり、コミュニティのようなものをつくったりするのだろうか? もしそうなら、森のなかの助け合い精神は──それはそれで生態系にとって有益であることには変わりないのだが── ”偶然の産物” ということになる。
しかし、自然はそれほど単純ではないと、たとえばトリノ大学のマッシモ・マッフェイが学術誌《マックスプランクフォルシュンク》(2007年3号、65ページ)で証明している。それによると、樹木に限らず植物というものは、自分の根とほかの種類の植物の根、また同じ種類の植物であっても自分の根とほかの根をしっかりと区別しているらしい。
では、樹木はなぜ、そんなふうに社会をつくるのだろう? どうして、自分と同じ種類だけでなく、ときにはライバルにも栄養を分け合うのだろう? その理由は、人間社会と同じく、協力することで生きやすくなることにある。木が一本しかなければ森はできない。森がなければ風や天候の変化から自分を守ることもできない。バランスのとれた環境もつくれない。
逆に、たくさんの木が手を組んで生態系をつくりだせば、暑さや寒さに抵抗しやすくなり、たくさんの水を蓄え、空気を適度に湿らせることができる。木にとってとても棲みやすい環境ができ、長年生長を続けられるようになる。だからこそ、コミュニティを死守しなければならない。一本一本が自分のことばかり考えていたら、多くの木が大木になる前に朽ちていく。死んでしまう木が増えれば、森の木々はまばらになり、強風が吹き込みやすくなる。倒れる木も増える。そうなると夏の日差しが直接差し込むので土壌も乾燥してしまう。誰にとってもいいことはない。
森林社会にとっては、どの木も例外なく貴重な存在で、死んでもらっては困る。だからこそ、病気で弱っている仲間に栄養を分け、その回復をサポートする。数年後には立場が逆転し、かつては健康だった木がほかの木の手助けを必要としているかもしれない。互いに助け合う大きなブナの木などを見ていると、私はゾウの群れを思い出す。ゾウの群れも互いに助け合い、病気になったり弱ったりしたメンバーの面倒を見ることが知られている。ゾウは、死んだ仲間を置き去りにすることさえためらうという。
木はその一本一本がコミュニティを構成するメンバーだが、それでもやはり、すべての木が同じ扱いを受けるわけではないようだ。たとえば、切り株のほとんどは朽ち果て、数十年後(ほとんどの樹木にとっては数十年は短期間にすぎない)には完全に土に還る。先ほど紹介した“苔むした岩”のように、数百年も延命措置がなされるのはごくわずかといえるだろう。
では、どうしてそのような ”差” が生じるのだろう? 樹木の世界も人間と同じく階級社会なのだろうか? 基本的にはそのとおりなのだが、 “階級” という言葉は当てはまらないだろう。むしろ仲間意識が、さらにいえば愛情の強さの度合いが、仲間をどの程度までサポートするかを決める基準となっているように思える。
森に入って、葉の茂る天井、いわゆる “林冠” を見上げてみれば、誰にでもわかることがある。通常、木は、隣にある同じ高さの木の枝先に触れるまでしか自分の枝を広げない。隣の木の空気や光の領域を侵さないためだ。一見、林冠では取っ組み合いが行なわれているように見えるが、それはたくさんの枝が力強く伸びているからにすぎない。仲のいい木同士は、自分の友だちの方向に必要以上に太い枝を伸ばそうとはしない。迷惑をかけたくないのだろう。だから “友だちでない木” の方向にしか太い枝を広げない。そして、根がつながり合った仲良し同士は、ときには同時に死んでしまうほど親密な関係になることもある。
切り株を援助するといった強い友情は、天然の森林のなかでしか見ることができない。私はブナのほかに、ナラ、モミ、トウヒ、ダグラスファー(ベイマツ)の切り株が仲間の助けで生き延びているのを見たことがある。もしかすると、どの種類の木も同じことをするのかもしれない。
中央ヨーロッパの針葉樹林のほとんどは植林されたものだ。そうした植林地では、樹木はまた違った行動をとることが知られている(本書の「ストリートチルドレン」の章を参照)。植林のときに根が傷つけられてしまうので、仲間とのネットワークを広げられないのだ。たいていは一匹狼として生長し、つらい一生を過ごす。とはいえ、そうした植林地の樹木は(種類によって差はあるが)100年ほどで伐採されるので、どのみち老木にまで育つことはない。
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
木の言葉
辞書によると、言葉を使ってコミュニケーションできるのは人間だけだそうだ。つまり、話ができるのは人間だけなのだ。では、樹木は会話をしないのだろうか? もしできるのだとしたら、どうやって? いずれにせよ、私たちは彼らの声を聞いたことがない。木は無口な存在だ。風に揺れる枝のきしみや葉のこすれる音は外からの影響で生じただけで、木が自発的に起こしたものではない。
しかし、じつは木も自分を表現する手段をもっている。それが芳香物質、つまり香りだ。この点では人間も同じで、私たちも香水やデオドラントスプレーを使っている。それに、もしそんなものがなかったとしても、私たち自身の体臭が身のまわりの人の意識や無意識に語りかける役割を担っている。においを嗅いだだけで逃げ出したくなったり、その人に惹きつけられたりした経験は誰もがもっているだろう。
研究によると、人間の汗に含まれるフェロモンがパートナーの選択でもっとも重要な基準となるそうだ。誰と子どもをつくりたいか、フェロモンが決めているのだ。要するに、私たちは香りを使って秘密の会話をしていることになる。そして、樹木にも同じ能力が備わっていることがわかっている。
およそ40年前、アフリカのサバンナで観察された出来事がある。キリンはサバンナアカシア(アンブレラアカシア)の葉を食べるのだが、アカシアにとってはもちろん迷惑な話だ。この大きな草食動物を追い払うために、アカシアはキリンがくると、数分以内に葉のなかに有毒物質を集める。毒に気づいたキリンは別の木に移動する。しかし、隣の木に行くのではなく、少なくとも数本とばして100メートルぐらい離れたところで食事を再開したのだ。どうしてそれほど遠くに移動するのか、それには驚くべき理由があることがわかった。
最初に葉を食べられたアカシアは、災害が近づいていることをまわりの仲間に知らせるために警報ガス(エチレン)を発散するのだ。警告された木は、いざというときのために有毒物質を準備しはじめる。キリンはそのことを知っているので、警告の届かない場所にある木のところまで歩く。あるいは、風に逆らって移動する。香りのメッセージは空気に運ばれて隣の木に伝わるので、風上に向かえばそれほど歩かなくても警報に気づかなかった木が見つかるからだ。
同じようなことがどの森でも行なわれている。ブナもトウヒもナラも、自分がかじられる痛みを感じる。毛虫が葉をかじると、その噛まれた部分のまわりの組織が変化するのがその証拠だ。さらに人体と同じように、電気信号を走らせることもできる。ただし、その速さはとてもゆっくりしていて、人間の電気信号は1000分の1秒ほどで全身に広がるが、樹木の場合は1分で1センチほどしか進まない。葉のなかに防衛物質を集めるまで、さらに1時間ほどかかるといわれている。
緊急事態のときでさえこの速さなのだから、樹木はやはりおおらかな存在なのだろう。動きは遅いが、木といえどもそれぞれの部分がほかの部分とつながって生きている。たとえば根に問題が生じたら、その情報が全体に広がり、葉から芳香物質が発散されることもある。しかも、とりあえずにおいを発するのではなく、目的ごとにそれぞれ異なった香りをつくる。
樹木はまた、どんな害虫が自分を脅かしているのかも判断できる。害虫は種類によって唾液の成分が違うので分類できるのだ。害虫の種類がわかったら、その害虫の天敵が好きなにおいを発散する。すると天敵がやってきて害虫を始末してくれる。たとえば、ニレやマツは小さなハチに頼ることが多いようだ。木々のところにやってきたハチは、葉を食べている毛虫のなかに卵を産む。すると、卵から生まれたハチの幼虫が自分より大きなチョウや蛾の幼虫を内側から食べつくしてくれる。残酷な話だが、ハチのおかげで木にとっては害虫がいなくなり、最小の被害で生長を続けることができるのだ。
ちなみに、この”唾液を分類する”というのも樹木の能力の一つだ。つまり、彼らにも味覚のようなものがあるということの証しだろう。
芳香物質によるコミュニケーションの弱点は、風の影響を受けやすいこと。香りが100メートル先まで届かないこともよくある。反面、利点もある。木の内部での情報伝達はとてもゆっくりなのに対して、空気による伝達は短時間で遠くまで伝わるため、自分の体の遠い部分まで短い時間で情報を送ることができるのだ。
害虫から身を守るには、必ずしも特別な緊急信号を発する必要はない。動物には木が発散する化学物質に反応する習性があるので、そうした化学物質によって木が攻撃されていることや害虫がそこにいることを察知する。そうした害虫を好む動物は、どうしようもなく食欲がかきたてられるのだ。
それに、樹木には自分で自分を守る力も備わっている。たとえばナラは、樹皮と葉に苦くて毒性のあるタンニンを送り込むことができる。その結果、おいしかった葉がまずくなり、害虫は逃げ出すか、場合によっては死んでしまう。ヤナギも同じような働きをもつサリシンという物質をつくりだす。ちなみに、サリシンは人間には無害だ。それどころかヤナギの樹皮を煎じた茶は、頭痛を和らげ熱を下げる効果がある。頭痛薬のアスピリンも、もとはヤナギからつくられたものだ。
だが、そのような防衛措置がうまく働くまでにはある程度の時間がかかる。だからこそ、早期警報の仕組みが欠かせない。そして、空気を使った伝達だけが近くの仲間に危機を知らせる手段ではない。木々はそれと同時に、地中でつながる仲間たちに根っこから根っこへとメッセージを送っている。地中なら天気の影響を受けることもない。
驚いたことに、このメッセージの伝達には化学物質だけでなく、電気信号も使われているようだ。しかも秒速1センチという速さで。人間に比べたらこれでもずいぶん遅いが、動物の世界であれば、クラゲやミミズなど、木々と同じような速度で刺激の伝達をしているものがたくさんいる。情報を受け取った周辺のナラはいっせいにタンニンを体内に駆けめぐらせる。
木の根はとても大きく広がり、樹冠の倍以上の広さになることがある。それによって、まわりの木と地中で接し、つながることができる。だが、いつもそうなるとはかぎらない。森のなかにも仲間の輪に加わろうとしない一匹狼や自分勝手なものがいるからだ。
では、こうした頑固者が警報を受け取らないせいで、情報が遮断されるのだろうか? ありがたいことに、必ずしもそうはならないようだ。なぜなら、すばやい情報の伝達を確実にするために、ほとんどの場合、菌類があいだに入っているからだ。菌類は、インターネットの光ファイバーのような役割を担う。細い菌糸が地中を走り、想像できないほど密な網を張りめぐらせている。
たとえば森の土をティースプーンですくうと、そのなかには数キロ分の菌糸が含まれている。たった一つの菌が数百年のあいだに数平方キロメートルも広がり、森全体に網を張ることができるほどに生長する。この菌糸のケーブルを伝って木から木へと情報が送られることで、害虫や干魃などの知らせが森じゅうに広がる。森のなかに見られるこのネットワークを、ワールドワイドウェブならぬ”ウッドワイドウェブ”と呼ぶ学者もいるほどだ。
だが、実際にどんな情報がどれだけの規模で交換されているのかについては、ほとんどわかっていない。ライバル関係にある種類の異なる樹木とも連絡を取り合っている可能性すら否定できない。菌には菌の事情があるはずだ。彼らがさまざまな種類の樹木に対し分け隔てなく接し、仲を取りもっている可能性も否定できないのだ。
衰弱した木は、抵抗力だけでなくコミュニケーション能力も弱まるようだ。その証拠に、害虫は衰弱した木を選んで集中的に攻撃する。害虫は、警報を受け取ったはずなのに反応せずにじっと黙り込んでいる木を選んで襲いかかっているように見える。沈黙は、その木が重い病気にかかっているからかもしれないし、地中の菌の網が失われて情報が入ってこないからかもしれない。そうした木は毛虫や昆虫の格好の餌食となる。先ほど紹介したようなわがままな一匹狼も、仲間からの情報が入ってこないため、健康であっても害虫に襲われやすくなる。
森林というコミュニティでは、高い樹木だけでなく、低木や草なども含めたすべての植物が同じような方法で会話をしているのかもしれない。しかし、農耕地などでは、植物はとても無口になるようだ。人間が栽培する植物は、品種改良などによって空気や地中を通じて会話する能力の大部分を失ってしまったからだ。口もきけない、耳も聞こえない、だから害虫にとても弱いのだ。そのため、現代の農業では農薬をたくさん使うようになった。栽培業者は森林を手本として、穀物やジャガイモをおしゃべりにする方法を考えたほうがいいのではないだろうか。
ところで、樹木と虫の会話は、防衛や病気だけを話題にしているわけではない。違う種類の生き物のあいだで喜ばしいシグナルが交換されることもある。そういったことに気づいたり、そのための香りを〝嗅いだり〟したことがあるだろう。そう、花の心地よい香りもメッセージの一つなのだ。
花は意味もなくいいにおいをまき散らしているのではない。ヤナギやクリ、あるいは果実のなる木は、香りのメッセージで自己を顕示し、ミツバチたちに自分のところに立ち寄るよう話しかけているのだ。糖分がたっぷり詰まった甘い蜜は、花に集まって受粉の手助けをしてくれた昆虫たちへのお礼のプレゼント。花の香りだけでなく、形や色もシグナルの一種だ。緑の背景に鮮やかに浮かび上がるレストランのネオンサイン、といったところだろうか。このように、樹木は香りと視覚と(根の先端の細胞でやりとりする)電気を使って会話をしている。では、木々は、音を出して話したりはしていないのだろうか?
この章の始めに私は、木は”無口”だ、と言った。だが、最近の研究ではそれすら疑わしくなってきたようだ。西オーストラリア大学のモニカ・ガリアーノがブリストル大学およびフィレンツェ大学と協力して、地中の音を聞くという研究を行なった。彼女は、研究室に木を植えるのは大変なので、かわりに穀物の苗を使った。するとどうだ、測定装置に根っこが発する静かな音が記録されたのだ。周波数220ヘルツのポキッという音が。根が”ポキッ”?
枯れ木もかまどの火にくべるとパチパチと音を立てるので、特に珍しいことではないと思うかもしれない。しかし、研究室で記録された音は無意味な騒音ではなかった。というのも、音を立てた根から生えた苗とは別の苗が音に反応したからだ。220ヘルツの”ポキッ”という音がするたびに、苗の先がその方向に傾いた。つまり、この周波数の音を”聞き取っていた”のだ。
植物は音を使って情報の交換をしているのだろうか? それが本当なら、とても興味深い。私たち人間も音を使ってコミュニケーションをとる。もし木々も音を使えるなら、私たちは彼らのことをもっとよく理解できるようになるかもしれない。ブナやナラやトウヒの気分や体調が、私たちにもわかる日がくるかもしれないのだ。この分野の研究は始まったばかりで、まだまだわからないことがたくさんある。でも、あなたが森のなかで小さな物音を聞いたら、もしかするとそれは風の音ではないのかもしれない……。
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
冬眠
夏の終わりごろ、きれいな緑色だった樹冠が淡い黄色に変わり、森は独特の雰囲気に包まれる。まるで木々が疲れ果てて、活動期を終えてしまったかのようだ。私たち人間と同じで、一生懸命に働いたあとはゆっくり休みたいのだろう。
そんなとき、クマや野ネズミなら冬眠するが、樹木はどうするのだろう? 私たち人間のアフターファイブのような安らぎの時間が彼らにもあるのだろうか? じつは、樹木と同じような行動をする動物がいる。ヒグマだ。ヒグマは冬に備え、夏から秋にかけてたくさん食べて体重を増やす。樹木も同じだ。クマと違って果実やサケを食べたりはしないが、日の光をいっぱい浴びて糖質などをつくり、クマのようにそれを皮膚に蓄えておく。ただし、樹木は太ることができないので、今ある組織を栄養分で満たすだけだ。
クマは食べれば食べるだけどんどん太るが、木の場合、満たされてしまえばそれで終わりになる。たとえば野生のサクラやナナカマドなどは、まだまだ日差しの強い時期が続いているというのに、8月になると早くも赤く染まりはじめる。今年の活動はもう終わり、といわんばかりに。樹皮の下と根っこのタンクが満たされたので、それ以上糖分をつくっても蓄える場所がないからだ。まだまだ太ろうとするクマを尻目に、そういう木々は冬眠の準備を始める。ほかの樹種は貯蔵タンクが大きいのだろう、秋の終わりまで光合成を続ける。だが、最初の木枯らしが吹くころにはそれも終わり、すべての活動を停止する。
なぜ、そんなことになるのだろう。理由の一つは水分にある。木は液体の水しか利用できない。水が凍ってしまうと、体内の水の通り道が凍った水道管のように破裂してしまうため、多くの樹種ではすでに7月ごろから活動を弱めて、体内に流れる水の量を減らそうとする。
ただし、(先に挙げたサクラやナナカマドなどの例外を除いて)2つの理由であまり早い時期に活動を停止してしまうわけにはいかない。1つは、晩夏に訪れる天気のいい日を光合成に利用するため。もう1つは、葉に蓄えられた物質を幹や根に移動させるためだ。特に重要なのは葉緑素だ。翌年の春に新しい葉に送り込むために、葉緑素を成分に分解して、どこかに保管しておかなければならない。
葉緑素の分解と保存が終われば、葉の本来の色である黄色や茶色が見えてくる。この色はカロテンからきているのだが、警告の意味もあるのではないかと考えられている。この時期になると、暖かい場所を求めてアブラムシをはじめとする昆虫が樹皮のしわの隙間などに逃げ込む。健康な木は葉の黄色をきれいに輝かせることで、自分には翌年も抵抗力があるぞ、と合図している。これは、その木には免疫力があって充分な防御物質が分泌できるということを意味しているので、アブラムシの子孫などの目には脅威に映るのだろう。だから彼らは、発色の薄い病弱そうな樹木を探す。
しかし、ここまで慎重な冬支度がどうしても必要なのだろうか? いや、針葉樹はほかにもたくさんの方法があることを教えてくれる。彼らは緑色の針葉をずっとつけたままだ。毎年葉を生え替わらせようなどという気はまったくない。だが、かわりに、不凍液の役割を果たしてくれる物質を葉のなかに含めることにした。また、乾燥した冬でも水分が失われないように、針葉の表面をワックスの層で厚く覆っている。樹皮も硬く、呼吸のための気孔はとても深い部分にある。どれも水分がなくなるのを防ぐためだ。乾燥した地面からは水を吸い上げることができないのに、地上の木が水分をどんどん失えば、そのうち枯れて死んでしまうからだ。
一方、広葉樹にはそうした仕組みがない。だからブナやナラは寒い時期がくると、大急ぎで葉を落とす。では、どうして広葉は分厚い保護層や不凍液をもつように進化しなかったのだろう? 広葉樹は、毎年春になるとせっせとたくさんの葉をつくり、冬がくると葉を落とす。たった数カ月のためにこれだけのことをするのは、果たして理にかなっているといえるだろうか?
進化という観点から見ると、その答えは〝イエス〟だ。広葉樹がこの世に現われたのはおよそ1億年前と考えられているが、針葉樹はすでに1億7000万年前に誕生していた。つまり、広葉樹のほうが〝新しい〟。広葉樹が行なう冬支度は、実際とても有意義だ。そのおかげで〝冬の嵐〟という巨大な力に耐えられるからだ。
10月を過ぎたころから強風が増えてくる。樹木にとっては生きるか死ぬかの大問題だ。時速100キロに値する風が吹けば、大木ですら倒れることがある。時速100キロといえば、週に一度は吹く程度の強さでしかないが、換算すれば200トンもの重圧がかかる。ただでさえ秋の長雨で土壌がぬかるみ、根が不安定になっているので、普通ならひとたまりもなく倒れてしまうはずだ。
そこで広葉樹は対策を立てた。風の当たる面を減らすために、帆を、いや、〝葉〟をすべて落とすことにしたのだ。その結果、一本につき1200平方メートルもの面積に相当する葉がすべて地面に消えてなくなる。帆船にたとえると、40メートルの高さのマストに掲げた幅30メートル高さ40メートルのセールをたたむのと同じ計算だ。それだけではない。幹と枝は、一般的な乗用車などより風の抵抗を受けないような形になっている。しかも、しなることができるので、突風が吹いても風による圧力は樹木全体に分散する。こうした仕組みが結合して、広葉樹も無事に冬を越すことができる。
では、5年や10年に一度の強風が吹いたときにはどうなるのか? そんなとき、森の樹木は協力して危機に立ち向かう。どの木もそれぞれ独自の強さや太さや、経験をもっている。そのため、暴風が吹くと、どの木もいっせいに同じ方向にしなるが、それぞれが違った速度でもとに戻ろうとする。木が一本しかないと、最初の風で揺れてバランスを崩しているところにもう一度強風が吹いたときには、しなりすぎて倒れてしまう可能性が高いだろう。
しかし、森ではそうはならない。それぞれのスピードで揺れるので、枝同士がぶつかり合い、揺れにブレーキがかかる。そのため、バランスを崩している時間が短くなり、次の強風がくるころにはみんな静止している。だから、二度めの強風も一度めと同じように耐えられるのだ。みんな個体として自立しながらも、同時に社会としても機能している。森林を見ていると、思わず感心してしまう。とはいえ、念のために付け加えておくが、嵐の日に森に入るのはできるだけ避けたほうがいい。
話を戻そう。広葉樹が毎年欠かさず葉を落とすのは、風に対処するためだけではなく、別の理由もある。雪だ。すでに述べたように、1200平方メートルもの面積に値する葉が落ちてなくなるのだから、枝に積もるごく一部を除いて、降ってくる雪の大半は直接地面に落ちることになる。
雪よりさらに重いのが氷だ。私も数年前に体験したことがある。その日、気温は0度を少し下まわり、霧雨が降っていた。そんな天気が3日も続いていたので、私は森のことを心配していた。雨は枝に落ちるとすぐに氷に変わっていったからだ。どの木もガラスでコーティングされたように見た目はとてもきれいだったが、シラカバの若木は重みに耐えかねてみんな腰を曲げていた。
この子たちはもうだめだ、と私は悲しくなったのを覚えている。成木、特にダグラスファーやトウヒといった針葉樹もひどいありさまで、木によっては枝の3分の2を失っていた。大きな音を立てて折れた枝が落ちてくるのだ。彼らがふたたび以前のような樹冠を茂らせるには、数十年かかるだろう。
ところが、私はその後、曲がってしまったシラカバの若木たちに驚かされた。数日後、氷が溶けたときに95パーセントがまっすぐに立ち直ったのだ。それから数年たった今、彼らにはなんのダメージも残されていない。ただし、わずかとはいえ、再生しなかった木もある。曲がって安定を失った幹が折れ、ゆっくりと土に還っていった。
落葉とはつまり、気候に対する優れた防衛手段なのだ。それに樹木にとってはトイレをすませる機会でもある。私たちが夜寝る前にトイレに行くように、樹木も余分な物質を葉に含ませて体から追い出そうとする。木にとって葉を落とすことは能動的な行為であり、冬眠に入る前にすませておかなければならない。翌年も使う物質を葉から幹に取り込んだら、樹木は葉と枝のつなぎ目に分離層をつくる。あとは風が葉を吹き落としてくれるのを待つだけだ。
この作業が終わると、木はようやく休むことができる。活動期の疲れを癒やすためにも、休息は絶対に必要だ。睡眠不足が命にかかわる問題なのは、樹木も人間も変わりない。実際、ナラやブナを植木鉢に植えて、室内に置いてもその木は長生きできない。人間がいるのでゆっくり休めないからだ。ほとんどの場合、1年以内に枯れてしまう。
ところで親木の下に立つ若木には、特別なルールがある。親木が葉を失うと、日の光は森の地面にまで届くようになる。若木にとっては思う存分光を浴びて、エネルギーを蓄えるチャンスなので、まだ葉を落とすわけにはいかない。だが、気温が突然下がると大変だ。マイナス5度ぐらいの寒さになると、どの木も活動が鈍り、冬眠を始めてしまう。そうなるともう分離層をつくれないので、葉を落とせなくなってしまう。
でも、幼い木はそうなってもかまわない。まだ小さいので、風になぎ倒されることも、雪に押しつぶされることもないからだ。このような時間差を、若木は秋だけでなく春にも利用する。親木たちより2週間ほど早く新しい葉をつけ、日光浴を楽しむ。
では、どうして若木には活動を始める時期がわかるのだろう? 親木がいつ葉を広げるのか、知らないはずなのに。その答えは気温の差にある。地面の近くでは、30メートルの上空に比べて2週間ほど早く暖かい春が訪れる。樹冠のあたりはまだ厳しい風が吹いて気温も低く、暖かくなるにはもう少し時間がかかるが、地面の近くは落ち葉の層が腐葉土として熱を発するうえに、大木の枝が晩冬の風をブロックしてくれるので、上空よりも気温が高くなるのだ。秋の2週間と合わせておよそ4週間、若木は存分に生長できる。この期間だけで、生長期全体の20パーセントにも相当する。
広葉樹にはさまざまなタイプの倹約家がいる。基本的に、葉を落とす前に翌年のために蓄える物質を枝に取り込むのだが、樹木のなかには倹約する気などさらさらない種類もあるようだ。たとえばハンノキは、明日のことなどどうでもいいとばかりに緑色の葉を落とす。ハンノキは主に湿った肥沃な土地に生えるので、毎年あらたに葉緑素をつくる余裕があるのだろう。必要となる物質は、足元の菌類やバクテリアが落ち葉からつくってくれるので、それを根から吸収すればいいのだ。
窒素もリサイクルする必要はない。ハンノキに共生する根粒菌がどんどん供給してくれる。ハンノキ林1平方キロメートルにつき、根粒菌が1年で30トンもの窒素を空気から取り込んで、根に譲り渡してくれる。これは農家が畑に散布する窒素肥料よりも多い量だ。ほかの樹種が倹約に努めるかたわらで、ハンノキは贅沢な暮らしを続けている。トネリコやニワトコも同じような特徴をもっていて、秋の森林の模様替えには参加せずに、緑のまま葉を落とす。
では、色を変えるのは倹約家だけなのだろうか? いや、そうとはかぎらない。黄色やオレンジ色や赤は葉緑素がなくなったあとに見られるカロテノイドやアントシアンの色だが、同じようにのちに分解される。ナラはとても慎重な木なので、それらすべてを貯蔵してから茶色くなった葉だけを落とす。ブナは茶色くなった葉もまだ黄色い葉も落とし、サクラは赤い葉を落とす。
広葉樹の話が続いたので、少し針葉樹に目を向けてみよう。針葉樹の仲間にも広葉樹のように葉を落とすものがいる。カラマツだ。どうしてカラマツだけがほかの針葉樹がしないことをするのか、私にはわからない。葉を落とすか落とさないか、そのどちらが生き残りにとって有利なのか。もしかすると、自然の進化も答えを決めかねているのかもしれない。葉を落とさないことの利点は、春になっても新しい葉をつくることなく、すぐに光合成が始められることにある。だが、樹冠が春の日差しを浴びて光合成を始めるころにはまだ地面が凍っていることもある。そういうときには、水分が根から送られてこないため、葉が乾燥してしまう。去年できたばかりの葉はワックスの層がまだ厚くないので、水分の蒸発を抑えることができずに特に枯れやすくなっている。
ちなみに、トウヒやマツ、モミやダグラスファーといった針葉樹も葉を落とす。傷んであまり役に立たなくなった古い葉を捨てるためだ。それでもモミは10年、トウヒは6年、マツは3年、葉を使いつづける。枝が区分けされていて、その葉が何年めかもわかるようになっている。マツは毎年4分の1の葉を捨てるので、冬は少しみすぼらしい姿になるが、春にはまた新しい葉が生えて、元気な姿を見せてくれる。
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
有機林業?
人間と動物の歴史を振り返ってみると、近年になって両者の関係が改善しているような気がする。いまだに大量飼育をはじめとする残酷な行為が行われているが、それでも私たちは動物の気持ちや権利を少しずつ理解し、尊重しはじめている。動物を “モノ”として扱わないことを目的として、ドイツでは一九九〇年に動物の権利を改善する法律も定められた。――動物も人間と同じような感情をもつことがわかってきた今、こうした動きは歓迎すべきことだと思う。
感情をもつのは、なにも人間に近い哺乳類に限ったことではない。昆虫もそうだ。カリフォルニアの研究者がショウジョウバエも夢を見ることを発見したのだ。そうはいっても、ハエに共感したり同情したりする人はまだまだ少ない。森の樹木となればなおさらだ。
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。。。人間は利用するために、生きている動植物を殺す。その事実を美化すべきではない。そうした行いが非難されるべきかどうかは、また別の問題だ。私たち自身が自然の一部であり、ほかの生き物の命を利用しないと命を維持できないようにできているのだ。どの生き物も同じ運命を共有している。
問うべきは、人間が必要以上に森林生態系を自分のために利用していいのか、木々に不必要な苦しみを与えてしまってもいいのか、ということだろう。家畜と同じで、樹木も生態を尊重して育てた場合にだけ、その木材の利用は正当化される。要するに、樹木には社会的な生活を営み、健全な土壌と気候のなかで育ち、自分たちの知恵と知識を次の世代に譲り渡す権利があるのだ。
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スイスの憲法には「動物、植物、およびほかの生体を扱うときには、その生き物の尊厳を尊重しなければならない」と記されている。これを守るなら、道端に咲く花を意味もなく摘むことは許されない。世界のほかの国の人々からは、このような考えはあまり理解されないかもしれないが、私個人としては、動物と植物の両者を隔てなく道徳的に扱うべきだという考えに賛成できる。植物の能力や感情、あるいは望みなどがよりよくわかるようになれば、彼らとの付き合い方が少しずつ変化するのは当然だろう。
森は、たまたま無数の生き物に生活空間を提供しているだけの木材工場でも資源庫でもない。事実はその逆だ。適切な条件で育つことができてはじめて、森林の樹木は安全と安心という木材の供給以上の役割を果たしてくれる。
環境団体と森林の利用者のあいだで繰り広げられる討論やケーニッヒスドルフの出来事を見るかぎり、私は将来に希望がもてると思っている。森はこれからも秘密を守りつづけ、散歩にきた私たちの子孫を驚きで満たしてくれるだろう。数え切れないほどたくさんの種類の命がつながって、お互いを助け合っている。これこをが森林という生態系の特徴だ。
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だが、そうした経済効果だけが、私たちが森林を大切にすべき理由ではない。森には、私たちが守るべき謎と奇跡がある。葉でできた屋根の下では、今日もたくさんのドラマと感動の物語が繰り広げられている。森林は、私たちのすぐそばにある最後の自然だ。そこではいまだに、冒険をしたり、秘密を見つけたりすることができる。
ある日、本当に樹木の言葉が解明され、たくさんの信じられない物語が聞けるかもしれない。その日がくるまで、森に足を踏み入れて想像の翼を羽ばたかせようではないか。−−−−突拍子もない空想だと思っていたことが、じつは真実からさほど遠くないのかもしれないのだから!
『樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声』
by ペーター・ヴォールレーベン
translated by 長谷川圭
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樹木たちは子供を教育し、コミュニケーションを取り合い、
ときに助け合う。その一方で熾烈な縄張り争いをも繰り広げる。
学習をし、音に反応し、数をかぞえる。
動かないように思えるが、長い時間をかけて移動さえする——
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森林というコミュニティでは、高い樹木だけでなく、低木や草なども含めたすべての植物が同じような方法で会話をしているのかもしれない。しかし、農耕地などでは、植物はとても無口になるようだ。人間が栽培する植物は、品種改良などによって空気や地中を通じて会話する能力の大部分を失ってしまったからだ。口もきけない、耳も聞こえない。だから害虫にとても弱いのだ。そのため、現代の農業では農薬をたくさん使うようになった。栽培業者は森林をお手本として、穀物やジャガイモをおしゃべりにする方法を考えたほうがいいのではないだろうか。
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どうして根がいちばん大切なのだろうか? それは、この部分に樹木の脳があると考えられるからだ。そう、“脳”だ。大げさすぎるって? しかし、木が学習をして記憶できるのなら、記憶を貯めておく場所が必ずどこかにあるはずだ。それがどこなのかはまだわかっていないが、その場所としては根がもっとも適した器官ではないだろうか。
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私は学生のころ、古い木よりも若い木のほうが元気で成長も早いと教えられた。この理論はいまだに信じられていて、森を若返らせる根拠とされている。“若返り”と言うと聞こえがいいが、実際には年老いた木を倒して、若い木を植えるだけだ。そうすれば、森は安定して生産量が増え、大気中の二酸化炭素も減少する。森林組合や林業専門家はそう主張する。樹種によって多少の違いがあっても六〇歳から一二〇歳ぐらいで成長が鈍るのだから、そのころには伐採したほうがいい、と考えるのだ。
“永遠の若さ”という私たちの社会が生んだ幻想が森林にも投影されているようだ。樹木にとっての一二〇歳は、人間の年齢に置き換えるとようやく学校を卒業して社会に出るころだろう。実際、国際的な研究チームが、これまでの定説が完全に間違っていたことを証明した。チームは、すべての大陸で合わせておよそ七〇万本の樹木を調べた結果、驚きの事実を発見した。木は年をとればとるほど、成長が早くなる。たとえば、幹の直径が一メートルの木は、五〇センチの木に比べておよそ三倍のバイオマスを生産する。
樹木の世界では年齢と弱さは比例しない。それどころか年をとるごとに若々しく、力強くなる。若い木よりも老木のほうがはるかに生鮮的であるということは、私たち人間が気候の変動に対抗するとき、本当に頼りになるのは年をとった木だということを示している。
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木は歩けない。誰もが知っていることだ。それなのに移動する必要はある。では、歩かずに移動するにはどうしたらいいのだろうか? その答えは世代交代にある。どの木も、苗の時代に根を張った場所に一生居座りつづけなければならない。しかし繁殖をし、生まれたばかりの赤ん坊、つまり種子の期間だけ、樹木は移動できるのだ。親の木を離れた瞬間に種子の旅が始まる。その多くはとても出発をとても急いでいるようだ。
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樹木は移動するので、森はつねに変化する。森だけではない、自然全体が変化を続けている。思いどおりの景観をつくりだそうとする人間の試みがほとんど失敗するのもそのためだ。自然が静止しているように見えるのは、ごく緩やかな移り変わりの一部しか見ていないからにすぎない。——樹木は自然界においてもっともゆっくりと変化するものの一つだからだ。数世代の時間をかけて観察してはじめて、樹木の変化を確認することができる。
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私の森のなか、古い広葉樹が集まっている場所を散歩した人々は声をそろえて「気分がいい」「とても落ちつく」と言ってくれる。一方で、針葉樹林を歩いた人々は——中央ヨーロッパの針葉樹林はほとんどが植林地、つまり人工林——そのような感情を抱かない。ブナ林などの広葉樹林では“危険を知らせる叫び声”があまり発せられていない。そのかわりに落ち着いた会話が木々のあいだで交わされていて、それを私たちが鼻から吸い込んでいるからではないだろうか。人間は森の健康状態を無意識のうちに理解できる、と私は確信している。
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According to the dictionary definition, language is what people use when we talk to each other. Looked at this way, we are the only beings who can use language, because the concept is limited to our species. But wouldn’t it be interesting to know whether trees can also talk to each other? But how? They definitely don’t produce sounds, so there’s nothing we can hear. Branches creak as they rub against one another and leaves rustle, but these sounds are caused by the wind and the tree has no control over them. Trees, it turns out, have a completely different way of communicating: they use scent.
Swiss Federal Constitution
Art. 120 Non-human gene technology
1 Human beings and their environment shall be protected against the misuse of gene technology.
2 The Confederation shall legislate on the use of reproductive and genetic material from animals, plants and other organisms. In doing so, it shall take account of the dignity of living beings as well as the safety of human beings, animals and the environment, and shall protect the genetic diversity of animal and plant species.
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The Swiss Constitution contains a provision requiring
“account to be taken of the dignity of creation when handling animals, plants and other organisms”