ホアヒンの砂浜

2025年1月11日~15日

 
水溜まりを飛び越えるのは簡単と
ジャンプしたらば見事に着水

砂浜に何の具合か水溜まりが出来ていた。仕方なく飛び越えることにする。アタマでは飛んだつもりでも、カラダは飛んではいない。僕のジャンプはこんなものか。案の定、思っていたよりもずっと手前の水溜りのなかに着水してしまった。

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満潮で海水が占める砂浜を
脚を濡らして駆けてゆく君

満潮で、広い砂浜は海水で覆われ、水に浸からなければ先に進めない。君は衣服をたくし上げ、サンダルを手に持って駆け出す。笑顔が太陽にまぶしい。こんな時がいつまでも続くようにと、信じてもいない神に祈る。

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足が濡れ腰まで濡れてしゃがみ込み
からだが濡れてこころも濡れる

海にそろそろと入っfてゆく。まず足が濡れる。遠浅の海辺で岸からだいぶ遠ざかって腰まで濡れたとき、思い切ってしゃがみ込む。からだじゅうが濡れる。こころまで濡れた気になる。きもちいい。

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レンズ見る海辺の君はいつまでも
同じポーズに同じ眼差し

50年前の海辺で見た君が、50年後の海辺にいる。スマホを向けると、50年前と同じポーズをとり、50年前と同じ眼差しを向ける。変わらない君を見て、変わってしまった僕を思う。君はいつまでも眩しい。

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あの世には海を渡って行くのかと
問う声がしてふっと空見る

果てしなく広い海を見ていると、水平線の先のことが気になって来る。あの先に、海以外のものがあるなんて、とても考えられない。でも、あの世は、海の先にあるのではないか。そんな声がする。いや、あの世は、空の上じゃない? そう思って空を見上げても、あの世は見えない。

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時のことワインのことに蝶のこと
話す相手が次々と逝く

ホワヒンの浜で沖を眺めていると、なぜか時間のことを考えてしまう。こんなとき尾関さんが生きていれば、時間のことを話せたのにと思う。ワインを飲むたびに、寺田さんに感想を言いたいと思う。蝶が飛んでいるのを見るたびに、駒宮さんに話したくなる。それなのに、みんな逝ってしまって、もう話す相手はいない。

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ホアヒンの砂の感触もっともっと
足の裏にも心にも来る

ホアヒンの海岸で波打ち際を歩く。波が来ると避ける。波が行くと踏み出す。濡れた砂の感触が、たまらなくいい。足の裏が喜んでいる。心も喜んでいる。

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砂浜で観光客を乗せる馬
生まれを恨むその眼や哀し

砂浜に痩せた馬が繋がれ、観光客が来るのを待っている。泥水を飲まされ、残飯を食べさせられて、一日中ひたすら客を待つ。子どもの客が来れば はしゃいだ子どもに蹴られ、中年の客が来ればその重さに耐えなければならない。それでも客が来ればいい。来なければ残飯さえ貰えなくなる。その眼は、限りなく悲しい。

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荒い波いつもの砂はいまどこに
やさしさまでもが消えている浜

海がうねり、牙をむく。潮位は上がり、砂浜は消える。ブルーは消え、ホワイトも消え、あたりをグレーが覆う。水に入ろうとする人もいない。そこには、昨日確かにあった優しさが、ない。

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友だちと思える男はベーシスト
会えるのだから会いに行かなきゃ

ホワヒンでの朝食の時、ふとひとりの友だちのことを思い出した。日本に帰ったら、会いに行こう。会えなくなる前に、会っておこう。

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日が昇り日が沈むという繰り返し
潮の満ち引きと違うリズムで

インターネットで日の出と日の入りの時間を調べ、潮見表を見つける。日の出・日の入りのサイクルと、満潮・干潮のサイクルが違うために、日の出を見るときの砂浜の広さがその時々で違ってくる。自然はほんとうによくできている。

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生きることにも死ぬことにも意味はない
生物すべて生きて死ぬだけ

砂浜で海の生き物たちを見ていると、生きることにも死ぬことにも意味はないと思えてくる。それは、砂の上の小さな生き物たちも、我々人間たちも、同じ。生まれてきて死んでゆく。ただそれだけだ。

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このところ悪いヤツには会わないな
波と遊んで風と戯れる

どの国にも、いいヤツがいて、悪いヤツがいる。それが、旅をたくさんして覚えたことだ。どこかの国にはいいヤツばかりいるとか、どこかの国には悪いヤツばかりいるというようなことはない。悪いヤツが家に帰ればいいヤツだったり、その逆だったり。でも、いいヤツと悪いヤツは、どの国にも間違いなくいる。海辺にいて、波と遊び、風と戯れていれば、悪いヤツと関わらずにすむ。

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こんなとこ来たくて来たんじゃないのよと
言ってた君が幸せそうに

散歩の途中で「こんなところ、来たくて来たんじゃないのよ」と言っていた君が、波が打ち寄せる砂の上で「幸せだ」という顔をしている。

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波砕け砂を覆った海水の
上を歩いて君に近づく

波が打ち寄せる。砂が濡れる。濡れた砂の上を歩いて、君に近づく。君がこちらを見て笑う。

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