そう、今週は、そんな 류시화 が文字にした膨大な言葉のなかから一つの詩を選んで味わう。『그대가 곁에 있어도 나는 그대가 그립다』(류시화著、푸른숲、1991年刊)だ。日本語訳も『君がそばにいても 僕は君が恋しい』(リュ・シファ著、蓮池薫訳、集英社クリエイティブ、2006年刊)として出版されている。訳者の蓮池薫さんは色眼鏡で見られることが多いが、この訳を読むかぎり。真摯な人だと感じられる。
この詩集の題名にもなっている『그대가 곁에 있어도 나는 그대가 그립다』は強烈な詩だ。『君がそばにいても 僕は君が恋しい』、『Even Though You Are Next To Me I Miss You』、『Même si tu es à mes côtés, tu me manques』、『Хоть ты и рядом со мной, я скучаю по тебе』、『即使你在我身边,我还是想念你』。。。 何語に訳しても、その強烈さは失われない。
물 속에는
물만 있는 것이 아니다
하늘에는 그 하늘만 있는 것이 아니다
그리고 내 안에는
나만이 있는 것이 아니다
내 안에 있는 이여
내 안에서 나를 흔드는 이여
물처럼 하늘처럼 내 깊은 곳 흘러서
은밀한 내 꿈과 만나는 이여
그대가 곁에 있어도
나는 그대가 그립다
In the water
It’s not just water
There is more than just the sky
And inside me
It’s not just me.
Who is inside me
You who shake me from within
Like water, like the sky, flowing deep inside me
The one who meets my secret dream
Even though you are next to me
i miss you
君がそばにいても 僕は君が恋しい
by リュ・シファ
水のなかに
水だけがあるわけではない
空には
空だけがあるわけではない
そして
僕のなかに
僕だけがいるわけではない
僕のなかにいる人が
僕のなかで僕を揺さぶる
水のように 空のように
僕の深いところを流れて
秘密の僕の夢で出会う
君がそばにいても 僕は君が恋しい
(24)
류시화『그대가 곁에 있어도 나는 그대가 그립다』
リュ・シファ『君がそばにいても 僕は君が恋しい』
https://shinichikushima.com/?p=90
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2024年5月31日(金)
君がそばにいても 僕は君が恋しい
今週の書物/
『그대가 곁에 있어도 나는 그대가 그립다』
류시화著、푸른숲、1991年刊
『君がそばにいても 僕は君が恋しい』
リュ・シファ著、蓮池薫訳、集英社クリエイティブ、2006年刊
韓国は詩の国といわれる。詩作が盛んで、詩の同人クループがたくさんあり、本屋に行けば詩集がたくさん並んでいる。韓国の詩に触れることが韓国の社会や文化を知る近道だと、多くの人が書いている。
キム・グァンソプ(김광섭)とか ユン・ドンジュ(윤동주)といった戦前の詩人が書いた詩を読むのは、日本人である私には つらい。日本統治下で詩を書けば、日本の警察に逮捕される。ふたりの詩は、特に政治的なわけではない。それなのに、キム・グァンソプもユン・ドンジュも収監され、ユン・ドンジュは獄死している。
戦後の詩人はバラエティーに富んでいる。ナ・テジュ(나태주)は、抒情的な詩を書く。アン・ドヒョン(안도현)は、生活に根差した詩を書く。イム・ジェボム(임재범)は、詩をロックのバラードにのせる。イ・ユンハク(이윤학)は、些細なことを詩にする。そして リュ・シファ(류시화)は、強烈な印象を残す詩を書く。戦後の韓国に、ありとあらゆるタイプの詩人が溢れ出した。
それは キム・インユク(김인육)とか ハ・テワン(하태완)といった 若い詩人に受け継がれ、多くの詩集が出版される今日の「詩の国」韓国に続いている。楽しい詩も明るい詩も見られるが、その底には悲しさや苦しさや寂しさや怒りが流れ続けている。
そんな数多の韓国の詩人のなかでも、リュ・シファ(류시화)は、私のなかで特別なひかりを放っている。たったひとつだけのフレーズで、読む者を虜にする。長髪、サングラス、瞑想。そんなイメージとはかけ離れた言葉が、紙の上に並ぶ。
そう、今週は、そんな 류시화 が文字にした膨大な言葉のなかから一つの詩を選んで味わう。『그대가 곁에 있어도 나는 그대가 그립다』(류시화著、푸른숲、1991年刊)だ。日本語訳も『君がそばにいても 僕は君が恋しい』(リュ・シファ著、蓮池薫訳、集英社クリエイティブ、2006年刊)として出版されている。訳者の蓮池薫さんは色眼鏡で見られることが多いが、この訳を読むかぎり。真摯な人だと感じられる。
この詩集の題名にもなっている『그대가 곁에 있어도 나는 그대가 그립다』は強烈な詩だ。『君がそばにいても 僕は君が恋しい』、『Even Though You Are Next To Me I Miss You』、『Même si tu es à mes côtés, tu me manques』、『Хоть ты и рядом со мной, я скучаю по тебе』、『即使你在我身边,我还是想念你』。。。 何語に訳しても、その強烈さは失われない。
물 속에는
물만 있는 것이 아니다
하늘에는 그 하늘만 있는 것이 아니다
그리고 내 안에는
나만이 있는 것이 아니다
내 안에 있는 이여
내 안에서 나를 흔드는 이여
물처럼 하늘처럼 내 깊은 곳 흘러서
은밀한 내 꿈과 만나는 이여
그대가 곁에 있어도
나는 그대가 그립다
In the water
It’s not just water
There is more than just the sky
And inside me
It’s not just me.
Who is inside me
You who shake me from within
Like water, like the sky, flowing deep inside me
The one who meets my secret dream
Even though you are next to me
i miss you
水のなかに
水だけがあるわけではない
空にはあの空だけがあるわけではない
そして僕のなかに
僕だけがいるわけではない
僕のなかにいる人
僕のなかで僕を揺さぶる
水のように 空のように 僕の深いところを流れて
秘密の僕の夢と出会う君
君がそばにいても
僕は君が恋しい
君がそばにいても 僕は君が恋しい。人を好きでいるときの感情をこれほど端的に表した言葉が、ほかにあるだろうか。
僕のなかにいる君。僕のなかを流れている水のように、僕のなかに広がる空のように、僕のなかにいて、僕を揺さぶり続ける君。僕の秘密の夢に出会う君。
류시화 の詩のなかの「君」は、류시화 の「君」ではない。読者ひとりひとりが「僕」であり「君」なのだ。
詩人は、読む人を、その気にさせる。류시화 の詩を読む人は、読むときに誰もが 詩人 になる。
詩が 韓国で ますます盛んになり、詩は 日本では 見向きもされない。それはいいことなのだろうが、ちょっと寂しい。
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류시화 の詩について、少しだけ書き加えたくなった。それは「あるもの」と「ないもの」のことだ。
そしてなんといっても、류시화 の詩といえば、「あるもの」への感謝と思いやりだ。
そんなことを書きつらねる 류시화 は、いったいどんな暮らしをしているのだろう。いったいどんなふうに人を愛しているのだろうか。류시화 は普通の人だという。普通ということは、どんなに特別なことなのだろう。
詩人に会うことがあったら、馬鹿げたことを言ってみよう。詩人がどんな反応をするか。それを楽しむのも、悪くない気がする。
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最後に、류시화らしい言葉を。
『새는 날아가면서 뒤돌아보지 않는다(鳥は飛びながら振り返らない)』から。
나무에 앉은 새는 가지가 부러질까 두려워하지 않는다.
새는 나무가 아니라 자신의 날개를 믿기 때문이다.
A bird perched on a tree is not afraid of the branch breaking.
That’s because the bird trusts its own wings, not the tree.
木にとまった鳥は 枝が折れることを恐れない
鳥は木ではなく 自身の翼を信じているから